「マーケティング一筋」は通用しない?
持続的なエコシステムに多様性が不可欠であるように、「人生100年時代」でサステナブルなキャリアを築くためには、多様なスキルを身につける必要があります。あくまで個人的な意見ですが「マーケティング一筋で30年やってきました」というキャリアではなく、マーケティングという軸を持ちながら、できるだけ多様なキャリアを歩むことが、持続力を備えたコンピタンス形成につながると思います。

電通でのキャリアを通じて、私は様々な転換を迎えました。クリエイティブ部門のマネジメント職を経験した際は、若く優秀なクリエイターから様々な刺激を受けました。カンヌやエフィーなどの広告祭で審査員を務めた際は、多様な国・市場の新しいマーケティングの是非を問い、数社のグローバル企業でマーケターのポジションに就いた際は、先進企業のクライアント視点を学びました。ほかにも、俯瞰的・長期的な視座を得た電通総研での仕事や、広告会社の中長期的な価値形成の課題と対峙したCEO室での経験など、数多くの機会に恵まれてきました。正直どれも意図して手に入れたものではなく、偶然の賜物です。ただ、様々なドメインに頭を突っ込んでゆく姿勢が、サステナブルなキャリア形成につながったのだと思います。
マーケターが変化し続けるために
一般的には「同じ領域でキャリアを積むほどスキルと経験が蓄積され、生産性が向上する」と言われています。同じ自分であり続けることは、短期的に見れば生産性は高いものの、リスクをともなわないぶん楽をしているとも言えます。ブランドのマネジメントがそうであるように、リスクをとらないことは長期的に見て最大のリスクとなるのです。全ての市場がコモディディ化の脅威にさらされる中、同じマーケティングを続けて価値を創造することは難しいでしょう。つまり、継続的かつ大胆なマーケティングイノベーションが求められます。マーケティングのイノベーションをリードしてゆくには、マーケター自身も変化し続けなければなりません。
マーケターが変化し続けるにあたって、マーケティングを楽しむ姿勢は前提条件となります。マーケティングの本質は価値の創出です。数ある価値の中でも“楽しさ”は最も重要と言えるのではないでしょうか。多くのアスリートやアーティストが口にするように、本人が楽しんでいなければお客様を楽しませることはできません。私が一緒に仕事をさせていただいた多くの素晴らしいマーケターは皆、マーケティングを愛し、心の底から楽しんでいました。