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パーパス経営とは?ビジョンやミッションとの違い・注目される理由・具体例


 企業が自社の存在意義を考え、社会に対してどのような貢献を行っていくかを明らかにして経営に取り組むことを「パーパス経営」といいます。社会情勢の変化や気候変動などの課題に関心が高まるなか、企業活動においても社会貢献がより強く求められるようになっています。事業を通じて社会貢献に取り組むことは、競合他社との差別化や企業価値の向上にもつながるため、企業にとってもプラスになる部分が多いといえます。この記事では、パーパス経営が求められるようになった背景や取り組むことで得られるメリット、各社の事例や実施するときのポイントなどを詳しく解説します。

パーパス経営とは

 パーパス経営について理解を深めるには、言葉の定義をきちんとおさえておく必要があります。ビジョンやミッションとの違いについても解説します。

自社の存在意義と社会への貢献を表す言葉

 パーパス(purpose)とは、「目的・意図」を意味する言葉です。パーパス経営とは、自社の経営理念や存在意義を明確にすることで、経営を通じて社会貢献を果たすことを意味します。

 パーパス経営はあくまで今、自社がどのような目的のために社会的に存在しているかを問うものであり、事業活動を通じて社会貢献をどう果たしていくかを考えるものです。次項で紹介するビジョンやミッションは、将来あるべき自社の姿を示すものであるのに対して、パーパス経営は現在の自社のあり方を見つめ直すものだといえます。

 自社の現状を分析し、事業を通じて何を達成するかを明確にすることで、社内メンバーで共通認識を持つことにもつながります。全社的な取り組みを行うからこそ、社外に対して自社の存在意義をきちんと示すことができるのです。

ビジョン・ミッションとの違い

 ビジョンとは、企業が将来的に目指していく姿を具体化したものを指します。また、ミッションはビジョンを実現するために果たす使命という意味を持ちます。

 パーパス経営は社会貢献を前提としていますが、ビジョンやミッションは必ずしも社会貢献を前提としているわけではありません。経営に対する捉え方として、ビジョンやミッションが社内向けの性質である側面が強いのに対して、パーパス経営は社会や世の中に向けた事業活動を示すものです。

 それぞれの概念が独立して存在するというよりは、自社のパーパスをきちんと設定することで、ビジョンやミッションといった将来に向けた行動方針も変わってくるでしょう。

パーパス経営が注目されている理由

 パーパス経営の基本的な意味を理解しても、必要とされる理由を把握していなければ、効果的なパーパス経営の実現は困難です。ここでは、パーパス経営が注目されている理由を3つの視点から解説します。

SDGsへの関心の高まり

 2015年の国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択されたことがきっかけとなり、パーパス経営に注目が集まるようになりました。

 SDGsは環境問題をはじめとして、社会的な課題と密接に関連した目標を多く含んでおり、個人だけでなく企業としても取り組むべき内容になっています。SDGsに対する社会的な関心の高まりとともに、社会貢献を前提とした事業活動を行うパーパス経営に注目が集まってきました。

 環境問題や貧困問題、教育や働き方などの諸課題は若い世代の注目度が高いという傾向が見られます。そのため、SDGsで掲げられているテーマをパーパス経営として活かしていければ、若い世代から支持される企業として成長していくきっかけにもなるでしょう。

 また、新たな顧客層の開拓や人材採用などの面で、企業にとってもプラスの影響を与える可能性もあります。パーパス経営と似たような言葉にサステナビリティ経営がありますが、こちらは環境・社会・経済の持続可能性に配慮した経営を行うことで、事業の持続可能性を高めていくことを指します。

 企業の存在そのものが多くの人に受け入れられ、中長期にわたって経営を継続していくには、こうした視点を企業が自ら積極的に取り入れていく必要があるのです。

DXを推進する企業の増加

 DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用してビジネスモデルや企業風土を変革することを指します。IT化やデジタル化などは、業務そのものを効率化していくことに主眼が置かれていますが、DXの場合はデジタル技術を用いることで経営のあり方そのものを大きく転換する意味を持ちます。

 DXの推進にあたっては、パーパス経営が重要な役割を果たします。従業員と企業の意識をパーパスとして結び付け、業務を通じて社会貢献していく意識を全社的に共有していくことが、結果としてDXの推進にもつながっていくでしょう。

 単なるIT化やデジタル化の取り組みで終わらせないためにも、自社の社会的な存在意義を見つめ直す必要があり、パーパス経営に注目する企業が増えているのです。

世代交代による影響

 ミレニアル世代(1980~1995年生まれ)やZ世代(1996年~2015年生まれ)は、SDGsやエシカル消費などについて、他の世代よりも関心が高いといわれています。エシカル消費とは倫理的消費とも呼ばれるもので、消費者自身が社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題の解決に取り組む事業者を応援したりする消費活動のことを指します。

 自分たちだけの幸せを考えるのではなく、社会全体が幸せになる取り組みを求める動きは、企業経営においても少なからず影響を与える部分があるため、パーパス経営が注目されているのです。

 またミレニアル世代やZ世代は、企業が社会貢献につながる取り組みを行っているかで、消費行動や就職などを判断することもあります。そのため、企業として事業を成長させたり良い人材を確保したりするために、パーパス経営へと移行するのは自然な流れでもあるといえるでしょう。

パーパス経営を行う3つのメリット

  パーパス経営に取り組むことで、企業がどのようなメリットを得られるのかを理解しておけば、具体的な施策の実行に結び付けやすくなります。ここでは、3つの点からパーパス経営に取り組むメリットを解説します。

迅速な意思決定が行えるようになる

 企業がパーパスを設定することで、意思決定を行うときの明確な指針となります。社外に対して自社の存在意義をきちんと打ち出しておくことで、常に外部の目を意識しやすくなるため、経営層が事業のあり方を考える際も共通認識を持ちやすくなります。

 また役員間だけでなく、従業員とのコミュニケーションでも役立つはずです。企業として掲げたパーパスに沿った事業活動を行っているかが判断できるため、全社的な取り組みを行いやすくなるでしょう。

従業員エンゲージメントが向上する

 パーパスを企業が自ら定めることで、従業員はその会社で働く意味や意義を見つけやすくなります。自分の業務が社会貢献につながっていることを感じられるため、結果として従業員エンゲージメントが高まりやすくなるでしょう。

 従業員エンゲージメントとは、会社のために貢献したいという従業員の自発的な意欲を指します。従業員と企業との間で強い結び付きが生まれることで、従業員の定着率や採用面に良い影響を与えるはずです。

ステークホルダーから支持されやすい

 パーパス経営を行うことで、企業の社会的な意義が明確になり、消費者や投資家などのステークホルダー(利害関係者)から選ばれやすい企業になれます。また、ステークホルダーから支持を受けることで、ブランディングや採用、売上の向上にもつながるでしょう。

 前述のとおり、企業が自社のことだけを考えるのではなく、社会的な課題の解決に自ら進んで取り組む姿勢が求められている時代です。競合他社より先んじてパーパス経営に取り組んでいけば、差別化戦略にもつながるため、企業価値を高めることにつながります。

パーパス経営の具体的な事例

 パーパス経営を具体的に活かしていくには、実際に取り組んでいる企業の事例を参考にすることが大切です。ここでは、各社の取り組みについて紹介します。

BMWジャパンのパーパスブランディング

 BMWは、長年にわたってサステナビリティを主要戦略と位置付けて事業展開を行ってきた企業です。古くは1972年に開催されたミュンヘンオリンピックで、マラソンの先導車として電気自動車を提供してきた経緯があります。

 同社では、「モビリティを通じて、すべてのお客様にJOYをお届けする」というパーパスを掲げており、ブランドスローガンとして「駆けぬける歓び」を掲げています。単に自動車を世の中に提供するだけでなく、事業活動を通じて顧客に歓びを提供することを事業目的としているのです。

 そのほかにも、2030年までにCO2排出量2億トン削減や工場でのプロダクション80%削減を実現するといった積極的な目標を掲げています。また、従業員全体がビーチクリーニングやフードロスのボランティア活動を行ったり、試乗イベントでは環境保護団体に寄付を行ったりする企画にも取り組んでいます。

 さらに、創立40周年記念に「世界はたいせつなものであふれている」をキーメッセージとした通年のキャンペーンを展開したり、SNS上での顧客とのコミュニケーションを重視する姿勢を打ち出したりと、顧客の意見を経営に活かす取り組みを行っています。

ユニリーバのパーパスドリブン

 ユニリーバのトータルビューティーケアブランドである「LUX(ラックス)」は、女性にまつわる社会問題の解決を目指したプロジェクト「LUX Social Damage Care Project(ラックス・ソーシャル・ダメージ・ケア・プロジェクト)」をスタートさせました。このプロジェクトでは、女性が理想の自分に近づくために社会のルールや固定観念にとらわれることなく、自分らしく輝いていけるサポートを行うことがパーパスとして掲げられています。

 おもな取り組みとしては、Twitterを軸としたユーザーとのコミュニケーションの活発化が挙げられます。ジェンダー問題に関する様々な意見やどのようなインサイトがあるかを探るために、広告メニュー、ライブ配信、インフルエンサー投稿、マンガタイアップの4つの軸からコミュニケーションを展開しました。

 ライブ配信においては、配信に関する感想ツイートなどを閲覧しながら視聴できるイベントページを採用し、ライブ配信を観ながらツイートできるという工夫を重ねました。その結果、スタート時の約1.5倍に会話量が増加するなど、ブランド価値を向上につながりました。

ミツカンの新ブランド「ZENB」

 2019年3月、調味料や納豆などを主力製品とするMizkan Holdingsは、「おいしさと健康を限りなく一致させる」という視点から、新ブランド「ZENB」を立ち上げました。酢やポン酢などの調味料の製造・販売を手がける老舗メーカーが、これまでと異なる新しい食の提案を行ったことで注目を集めた例です。

 ZENBでは、動物性原料や香料、着色料などの添加物に頼らず、植物の皮や芯など普段は食べていない部分を使用することで、新しい食のライフスタイルを提案しています。また、100%豆だけで作ったヌードルや野菜を丸ごと使ったスティックなどの商品開発も行っています。

 ZENBの立ち上げにあたっては、プロジェクトメンバーだけでなく、経営層や外部のクリエイターなども交えながら構築を進め、全社的な取り組みとして行われています。創業時からフードロスの解消に取り組んできたという経緯もあり、事業活動を通じて社会に貢献する社風が育まれているといえるでしょう。

パーパスを策定するときのポイント

 パーパス経営を成功に導くためには、パーパスの策定をきちんと行う必要があります。どのような視点がポイントになるのかを解説します。

社会課題の解決への貢献を掲げる

 パーパス経営は、前提として社会的な課題の解決につながるための活動を行う必要があります。単なる社会貢献活動ではなく、課題解決に踏み込んだ取り組みが重要であるのがポイントです。

 社会的な課題とは、具体的には環境問題や労働環境の改善、人権問題などが挙げられます。自社の事業と照らし合わせたうえで、どのような課題を解決するための取り組みとするかを見定めてみましょう。

事業と関連し、自社独自の視点で定める

 パーパスを策定する際に気をつけておきたい点は、社会的な課題の解決につながるものであれば何でも良いというわけではないことです。パーパス経営においては前述のとおり、自社の存在意義を明確に打ち出す必要があります。

 そのため、いくら社会的な課題の解決につながる取り組みであったとしても、競合他社と同じような取り組みを行っていては、自社の存在意義が不明確なものとなってしまいます。競合他社との差別化を図るためには、自社がこれまで行ってきた事業と照らし合わせてパーパスを策定すると良いでしょう。

 パーパス経営には中長期的な取り組みが求められます。自社にノウハウや経験がないことに取り組んでも成果につながりづらいため、自社が強みとする事業を通じて社会に貢献していきましょう。

実現可能な内容を設定する

 どのようなパーパスを定めるかは、企業規模によっても異なってきます。資金や人員などの経営資源が限られている場合、大規模な取り組みを行おうとしても中途半端な実施で終わってしまう可能性があります。

 自社の経営実態に合わせて、たとえ小さなプロジェクトであっても着実に実行できるものを選んでいくほうが、実績を積み上げていくことにつながるでしょう。実現可能性のあるパーパスを定めることによって、より多くの人に共感されやすくなるといえます。

 顧客や従業員、投資家などのステークホルダーと連携してパーパスを定めていくと、自社の強みを活かした取り組みが実現しやすくなるでしょう。特に従業員とのコミュニケーションを積極的に図ることは、個々の仕事に対するモチベーションの向上や社内共通認識につながります。

 また、パーパス経営に取り組んだ結果として業績が悪化してしまわないように、顧客や投資家といった外部の理解を得ることも重要です。

 社会貢献につながる取り組みを行いつつ、事業としてきちんと利益が確保できる仕組みを作ることが、パーパス経営の継続には不可欠といえるでしょう。

まとめ

 パーパス経営は事業活動を通じて、社会的な課題解決を図る取り組みを行うことを指します。自社の強みを活かしたパーパスを打ち出すことで、会社の存在意義を明確にすることができ、結果として売上のアップや企業価値の向上が期待できます。

 単なる一過性の社会貢献活動ではなく、事業を通じた中長期的な取り組みとなるため、顧客や従業員、投資家といったステークホルダーと連携して取り組むことが必要です。パーパス経営を実現することで、競合他社との違いを明確にすることができ、事業の持続可能性を高めていくことにもつながるでしょう。

 社内外でのコミュニケーションを充実させ、自社独自の取り組みを見つけていくことが重要です。

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この記事の著者

マーケ研究所(マーケケンキュウジョ)

 マーケティングに関する情報を調べ、まとめて届けています。

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MarkeZine(マーケジン)
2023/02/22 03:08 https://markezine.jp/article/detail/40711

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