遅れをとる日本企業、インフルエンサー市場は縮小へ
——今、日本ではインフルエンサーマーケティングが盛況ですが、その動きはどのように見ていますか?
日本のインターネット広告費がテレビ広告費を抜いたのは記憶に新しいでしょう。さらに、インターネット広告費におけるソーシャル広告のシェアは一層高まっています。しかし、中国では5年前からその流れが起きていました。

出典:CCI/D2C/電通/電通デジタル「2021年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」
実は、中国におけるインフルエンサーマーケティングは既に成熟し始めています。5~6年前までは中国でも有効な訴求手段でしたが、インフルエンサーを起用した企業PRは飽和状態に陥り、消費者がそうした宣伝に徐々に懐疑的になり始めたのです。その結果、インフルエンサーマーケティングのCPAはどんどん上がり、企業としても高額な出稿費が成果に見合わなくなってきたのです。その結果、インフルエンサーに代わる存在としてソーシャルセラーが注目され始めました。
企業がソーシャルセラーに商品を買い付けてもらい、その販売益を収入とする。こうした流れは遅くとも5年後には日本にもやってくるでしょう。
中国が日本の5年先のトレンドを追えている要因の1つに、若年層の消費力があると私は考えます。中国では1990年代初頭まで、あらゆる物資が国による配給で賄われていました。しかしながら配給制度が終了し、現在の40~60代の国民が保有する土地などの資産価値が急上昇したのです。「一人っ子政策」により、彼らの孫は1人のみ。つまり今、多くの若年層において「シックスポケット現象(※)」が起きているのです。こうした若年層の消費力や経済を牽引する力が、日本よりもソーシャルコマースのトレンドを先行できている理由にあると思います。
※父母の資産が1人の子どもに集まるだけでなく、祖父母にとっても1人しかいない孫に資産が集約されていく状態のこと
日本のソーシャルコマースの現在地は?
——日本のソーシャルコマース活用の現在地を教えてください。
「TikTok」や「Instagram」「17LIVE」などの様々なプラットフォームが登場した結果、日本でも個人やブランドが気軽にソーシャルコマースを始められる環境は整いました。既にソーシャルセラーに近しい活動をされている方もいる一方で、自身の販売力に無自覚な方がまだ多いのではないでしょうか。
たとえば、不動産に詳しいAさんが、フォロワーから「これから引っ越しを考えているが、賃貸と購入どちらが良いか」などと質問され、SNS上でアドバイスしたとします。その助言が的を射ていて、フォロワーに「この人が紹介してくれた物件なら買いたい」というニーズがあれば、Aさんが直接物件を販売すれば良いのです。それがソーシャルセラーです。実際、日本でも古着好きの人が小遣い稼ぎで古着を自ら仕入れ、オンラインで販売している例を聞いたことがあります。こうした“潜在セラー”は今後、副業の解禁にともない日本でも進んでいくでしょう。
今はインフルエンサーマーケティングでも広告主が十分なROIを得られています。しかし、ゆくゆくは中国と同様PRに対する消費者の懐疑心が強まり、インフルエンサーマーケティングに限界が訪れます。そして、潜在セラーの方々は自身の専門性を自覚し、活動を本格化していくでしょう。その結果、信頼に基づくCtoCビジネスがどんどんシェアを拡大していくと思います。