中国で台頭するソーシャルコマース市場
——まずは、濵野さんのご経歴とNOVARCAが提供しているサービス内容について教えてください。
私はDeloitteで経営コンサルティングに従事した後、ホットリンクに参画しました。ホットリンクではCOOとしてグローバル事業や経営戦略、事業開発などを統括し、その後にトレンドExpress、現在のNOVARCAを分社化して、代表取締役に就任しました。
当社では、中国を中心とした日本企業のグローバル展開を支援しています。創業当初はデータ活用の支援が中心でしたが、独自に開発した需要予測ツールやプラットフォームを通じ、EC販売支援・ブランディングプロモーションなど支援の裾野を広げています。
——コロナ禍により、中国市場ひいては国際市場はどのように変化したのでしょうか?
創業した2015年当時、日本では訪日中国人による爆買いがブームになりました。そのためインバウンド支援を中心に事業を展開していましたが、2020年のコロナショックを機にインバウンド需要が当時の勢いを失ってしまったのです。
ECと一口にいっても、その様相は段階的に変化しています。以前は企業やブランドから商品を購入する「BtoC」が主流でしたが、今は「CtoC」つまり、企業ではなく個人から商品を買うビジネスモデルへと徐々に移行してきています。さらに昨今、中国EC市場で台頭しているのがソーシャルセラーをハブとしたソーシャルコマースという販売形態です。
消費者からの信頼を得てモノを売る「ソーシャルセラー」
——ソーシャルコマースとは、具体的にどのような購買プロセスを辿るものなのでしょうか。
広義のソーシャルコマースは「ソーシャルメディア、SNSを通じた販売形態」です。私はさらに要素を加え「個の“信頼経済圏”の上に成り立つビジネス」だと定義しています。どういうことかというと、売り手がSNS上でフォロワーを獲得し、フォロワーからの「この人が勧める商品なら良いものに違いない」という信頼の上に成り立つビジネスモデルだということです。その売り手をソーシャルセラーと呼びます。
似た存在としてインフルエンサーがありますが、インフルエンサーが広告収入を主な収入源としているのに対して、ソーシャルセラーは自身で商品の買い付けから在庫調整、値付けまで行う。たとえるなら楽天市場の店長のような存在です。
ソーシャルセラーとインフルエンサーでは、普段投稿するコンテンツの種類も異なります。インフルエンサーのコンテンツは自身のライフスタイルや趣味趣向を切り取ったものが多いのに対し、ソーシャルセラーのコンテンツは自身の得意領域に関する専門知識を紹介したものが多いです。つまり、ソーシャルセラーはフォロワーの悩みを解決する、ある種コンシェルジュ的な役割を担っています。
特に中国市場は「信頼経済の上に成り立っている」とよくいわれます。中国の消費者は他の国の消費者より懐疑心が強く「情報を簡単に信じない」などの特徴が見られます。こうした中国の消費者に対し、確かな質の商品・サービスを提供してくれる存在がソーシャルセラーというわけです。
実際、中国におけるチャネル別の日本商品の購入額を見ると約1.8兆円、全体の約4割をソーシャルセラーチャネルが占めています。摸造品や質の悪い商品を掴むリスクや危機感から「信頼しているあなたから買いたい」というヒューマンドリブン、もしくはリレーションドリブン消費が中国市場では主流となっているのです。