利便性だけでない“+αの価値”をどう作るか
近くの店舗の在庫状況をアプリで確認した上で注文し、店舗や店舗の駐車場でピックアップするBOPIS(Buy Online Pick up In Store)や、注文後の当日数時間以内の配送は米国のカスタマーにとって当たり前の選択肢となった。重要なことはテクノロジーの導入自体ではなく、カスタマーが「状況によって便利に選択できる」ことだ。
現在米国ではウォルマートやホールフーズなど大手スーパーの他、CVSやUlta Beauty(アルタビューティ)などのドラッグストアやコスメ・雑貨ストア、Macy’s(メイシーズ)やNordstrom(ノードストローム)などの老舗百貨店に至るまでにBOPISが導入されている。
米ウォルマートのNRF 2023のセッションでは未来の配送のあり方として、配送はもちろん返品まで対応するドローンの活用について語られた。さらに同セッションの対談の中で中国大手EC・物流企業JD.comのハーラン・ブラッチャー氏が、空飛ぶドローンの他に、道路を走る無人の小型ランディング・ドローンについても言及。通常の道路はもちろん、小型ゆえに狭い地下通路や倉庫内を効率良く走ることができる。しかも、すべて電気か水素による電気自動車でサステナブルの面でも貢献する。
このドローンは、既にコロナ渦においてロックダウンされた地域への食品や医療物資を届けるのに活用されていたという。もちろんカスタマーにとっては早く、便利に、どこでも受け取れる点がメリットである。
生活者にとって便利に配送手段を選べることは購買時の利便性の一つだが、こういったテクノロジーは一定数の生活者へ根付き、今後も引き続き進化していくことが予想される。こうした便利で効率的な購買体験が進んでいる一方で、第1回で触れたように、カスタマーエンゲージメントを高める効率だけではないユニークな体験価値をどのように作っていくかも非常に重要だ。
ここからはどのように様々な体験価値を作っているか事例を見ていこう。
自分に合った商品を楽しく、早く、最適に選べるナイキ
ナイキではカスタマーにとって最適なものを見つけられる体験にこだわっている。ニューヨークマンハッタン5番街の一等地に位置する「Nike House of Innovation 000」は、世界有数のナイキのフラグシップ店舗だ。そこでは専用アプリを介してクイックかつ便利なショッピング体験が提供される。
店舗に近づくとアプリが認識し、その店舗で使える機能を表示する。たとえば、その場でチェックアウトができる機能。他にも、商品に付いているQRコードを読み取りサイズを指定すると、店舗内の指定場所まで商品をスタッフに運んできてもらえる。
さらに店舗内では、ナイキの世界観の中で楽しみながら最適な商品を選べる体験が用意されている。たとえば入店してすぐ横には、ド派手に光るバスケットボールのコートのようなエリアがある。ここではドリブルやシューティングなどの動きをするゲームが楽しめるようになっていて、店内のシューズを実際に履いて、オフェンスの動きをしながら履き心地を試すことができる。
上階では自分だけのオリジナルシューズを作ることができる。また、ナイキウェアを着たマネキンは様々なサイズ・体形で、ナイキが掲げるダイバーシティインクルージョンの理念「If you have a body, you’re an Athlete. (体さえあれば、誰でもアスリート)」が体現され、自分の体形に近い服を着たイメージを投影しやすくしている。
こうしたブランドの世界観の中で、アプリによる利便性だけでなく、店舗内の体験を通してあらゆる角度からカスタマーにとって便利に最適なものが見つけられる体験を提供している。