サイバーフィジカルの可能性
続いて紹介するのは、博報堂の須田和博氏と瀧﨑絵里香氏による「マーケティングにおけるサイバーフィジカルの可能性」。サイバーフィジカルとはサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたSociety 5.0のことをいい、関連ワードとしてメタバースなどがある。
Society 5.0とは:サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもの。
引用:内閣府「Society 5.0」https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/
メタバースは、言葉からイメージされる「VRゴーグルを装着し、アバター体験を味わうこと」だけを指すのではなく、ECであればリアルの売り場との連動、エンタメであればVTuberへの投げ銭、他にもZoomなどを用いたオンライン会議、サイバー空間上のオフィスなども、この範疇にある。
現段階で最も成長しているサイバーフィジカルの市場の1つはVTuberである。メタバースは話題となっているが、必ずしもリアルマネーをともなう市場の活発化には至っていない。ただし、プロモーションへの応用やコミュニティ活動に対して可能性が見出されており、多くの企業でトライアルが続いている。物理的な距離がなくなれば心理的な距離も近くなりやすいため、メタバースという接点により新たな顧客層を開拓できる可能性がある。
両氏はサイバーフィジカルが発展するかどうかは企業の捉え方次第だとする。企業はオンラインで生活している生活者の気持ちやメンタリティを理解することが必要であり、リアルな生活で出てくる課題やニーズをそのまま持ち込むのは望ましくない。サイバー空間を「別の国」として捉え、そこに住む人の言葉、カルチャー、価値観を把握し、その新しい世界で自社がどんな価値を提供できるかを考えてビジネスを進めるべきだ、と両氏は締めくくった。
統合マーケティングの鍵とは
電通の江頭瑠威氏による論考「人に寄り添うデータ活用による『需要喚起』と『ブランドエクイティの管理』が今後の統合マーケティングの鍵」は、昨今注目されている統合マーケティングがテーマに置かれている。統合マーケティングとは、マーケティングのデジタル化(オンラインとオフラインの統合)を顧客のIDベースで進め、市場機会の発見から施策改善までを一気通貫でマネジメントすることである。
江頭氏はデジタル接点の拡大がIDベースのマーケティングを加速するとしている。生活様式の変化によって顧客接点はどんどんオンライン化しており、メールアドレス、SNSのログインID、OTTやコネクテッドTVの視聴ログ、キャッシュレス決済の購買データなど枚挙に暇がない。同時にデータ分析の環境も発展しており、カスタマー・データ・プラットフォーム(CDP)の普及も目覚ましい。個人情報を保護したうえで統合的にデータマネジメントできる環境が整ってきている。ただし、プラットフォームの多様化でマーケティング施策が分断してしまうことには気をつけたい。
こうした統合マーケティングを活用すると、刈り取り型の「需要消費型マーケティング」から「需要創造型マーケティング」への転換が可能になると江頭氏は指摘する。「潜在的な需要を顧客視点で見つけること」を第1ステップとすれば、生活者の志向性に合った形で需要を喚起することができるようになる。これまでは需要を喚起された人が来店・購入してくれるように待ち構えることしかできなかったが、今後はIDベースのマーケティングで直接かつ継続的にアプローチし、認知から購買までの顧客体験をデザインできるようになる。
江頭氏は「効果的・効率的に新しい需要を喚起していくこと」がマーケティング担当者の重要な仕事になるという。その中心に統合的なデータマーケティングと人に寄り添った体験設計があり、それをストックしたデータの活用を推進していく。施策の結果、何がブランドの資産となったのかを捉え、商品や事業の付加価値の向上に努めなければならない。
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