「タイパ重視」の時代
佐藤:話は変わりますが、若い世代ほど「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する傾向があり、私たち生活総研の研究でもその傾向が出ています。これは、ファッション誌のコンテンツにはどのように影響していますか?
安井:すごく特徴的だと思うのは、記事のページ構成について「はじめのページに全スタイルを載せてほしい」と言われるんですよ。
従来は、たとえば1週間コーデの特集があったとして、月曜から金曜まで1ページずつ並べていくのが普通だったのですが、最近では「最初に答えが知りたいから、特集に出てくるものをまずは全部並べてほしい」と。先に結論を見たうえで、どのスタイルを詳しく見ていくのかを自分で決めたい。そのあたりの感覚は、本当に効率重視だなと思います。
酒井:映画の場面をサムネイルで一覧にして、怪獣が出てくるシーンだけ見たい、というような感覚ですね。効率重視という意味では、「秒速」「即決」といった言葉もちらほら目につきますが、こうした言葉も意識的に使っておられるのでしょうか。
安井:「すぐにできる」とか「5秒で決まる」みたいな表現は意識して取り入れていますね。
Webで調べるときは、ある程度は自分で時間をかけることにも抵抗がないかもしれませんが、雑誌の場合は「ちょっと見たら答えが載っている」ことが、より強く求められているように思います。
流行に対するアンチとしての「偏愛」
佐藤:2020年代に入って、「偏愛」という言葉が目立って増えていることについては、ご実感はありますか?

安井:コロナ禍を経て、「オタク文化」や「推し文化」がすごく成熟したという背景があります。「偏愛」という言葉も、その流れで広まっているように思いますね。雑誌では「偏愛コスメ」みたいな感じで使うことが増えました。
佐藤:「愛用」など、これまでも「偏愛」に類する言葉はあったと思うのですが、たとえば「偏愛コスメ」という表現にはどのようなニュアンスが込められているのでしょうか?
安井:「ほかの人はどう思うかわからないけど、私はこれが好きなんです!」みたいな感覚でしょうか。
加藤:流行を追うのではなく、「10年間ずっとこれを買い続けています」みたいなこだわりですね。
そこにはやはり、流行に対するアンチのような気持ちがあると思います。「世の中で何が流行ろうが、私はこれが好き」という強い想いがあって、そのアイテムが廃番にならないように、買い続けることで支える。まさに「推し活」ですよね。
酒井:雑誌が世の中のムーブメントをつくり、世の中のムーブメントが雑誌に還元されていく。そんなサイクルが、雑誌の「目次」に表れていることがよくわかります。ビッグデータというと、最新、直近のデータという印象が強いですが、今回のように分析に有効活用しうる過去のストックを持つ企業は、特にコンテンツメーカーには多いのではないでしょうか。
たとえば私たちはこれまでにも、アクロス編集部との共同研究で、40年分のストリートファッションスナップをデータ化し、大きな時代変化を捉える取り組みなどをしてきました(生活総研Webサイトより「どんどん白くなる若者たち ~37年間の若者ファッション画像解析・前編~」)。
今、蓄積されつつあるビッグデータは取得開始からまだ日が浅いので、10年単位の大きな時代変化を捉える分析には不向きです。様々な企業に蓄積された膨大なコンテンツを解析可能なデータとして読み解くことには、それを補完する役割もありますね。
今日はありがとうございました。