学んでも成果が出ない「マーケティングの樹海」
今回紹介する書籍は『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(日本実業出版社)。著者である西口一希氏はP&Gやロート製薬、スマートニュースなど様々な企業の成長に貢献し、現在はStrategy Partnersの代表取締役を務めています。また著書『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』をはじめ、マーケティング実践のための情報発信にも取り組まれています。
マーケティングの世界では、様々なマーケティング方法論や手法が増え続けています。理論やテクノロジーを勉強して施策をあれこれ実践したものの、思ったような成果が出ずに労力や時間を浪費してしまうマーケターも少なくありません。
こうした状況について、西口氏は「マーケティングを『学ぶ』のと実践『できる』の間には大きな壁がある」と述べ、その壁を越えられず悩むマーケターを「マーケティングの樹海」をさまよう状態だと表現しました。このマーケティングの樹海を抜け出すには、一体どうすればよいのでしょうか?
重要なのは「WHOとWHATの組み合わせ」
西口氏は下記のように述べ、方法論や手法を学ぶよりも、まずはマーケティングが対象とすべき「ビジネスの原則」を理解することが重要だと指摘しました。
マーケティングの樹海を抜け出すためにもっとも大切なのは、流行りのツールや具体的な理論を覚えるよりも、マーケティングもふくめた「ビジネスの原則」を理解しておくことです。
ビジネスの成り立ちとして、お金を払ってもらえる、すなわち顧客に価値を見出してもらえる何かを作る必要があります。西口氏はマーケティングの説明として、顧客が価値を見出すプロダクト(商品・サービス・体験)を作るため、必要なことをすべてやることだと述べました。
それでは、価値とは何なのでしょうか? 西口氏は、価値は「WHOとWHATの組み合わせ」であると定義。どんな顧客(WHO)にどんなプロダクト(WHAT)を届けて価値を作るのかが、マーケティングにおいて大切なことだといいます。
反対にプロダクト以外の「マーケティングの4P」を構成する要素である、プロモーション・プレイス・プライスはすべて「HOW」であり、WHOとWHATの組み合わせを実現する手段です。HOWは時代とともに変化するため「まずやるべきことは目先の手法に踊らされず、WHOとWHATをしっかりとらえること」だと西口氏は指摘。WHOとWHATをとらえることができれば、自然とHOWも見えてくるのだと主張しました。
プロダクト自体に価値はない?
加えて西口氏は、価値とは「『WHO(顧客)』が『WHAT(プロダクト)』に見出した便益と独自性」であると追加し、以下のようにまとめました。
便益:便利になる・楽しいなど具体的な利益や利便性をもたらす(買う・選ぶ理由)
独自性:唯一無二であること(他の選択肢や競合を買わない・選ばない理由)
牛乳を例に考えると、たとえば「おいしい低脂肪牛乳」を提供した場合、牛乳アレルギーのある人にとっては何の価値もないプロダクトです。しかし、ダイエット中の人には便益を感じてもらえる可能性があり、なおかつ低脂肪なのにおいしいという独自性も見出してもらえるかもしれません。
顧客が価値を見出す形を作ることができたら、買いたいと考える人たちがアクセスできる仕組みや販売チャネルを設計していくフェーズになります。このように人は便益と独自性に価値を感じ、プロダクトを購入します。
西口氏は、マーケティングでは誰(WHO)にどんな便益と独自性を提供できるプロダクト(WHAT)かを考えることが大切であり、WHATによって便益と独自性を提供しWHOを獲得して収益を目指すのがビジネスの原則だと解説。WHAT自体に価値はなく、WHOが価値を見出すかどうかが成功の分かれ目になるといいます。
本書は、顧客分析をどうマーケティングに活用するかの他、事業フェーズごとの施策設計の考え方などを解説した一冊となっています。学んだマーケティング知識を成果に結びつけたいと考えている方は、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。