※本記事は、2023年4月25日刊行の『MarkeZine』(雑誌)88号に掲載したものです。
【特集】次の10年をつくる、組織と人材
─ 本格AI時代の局面を迎えた今、組織・人材をどう変える?電通デジタルが進める「AIの標準装備化」
─ グループ間の連携開始・社内アカデミーの開講、WPPジャパンが進める人材育成と組織強化
─ 老舗企業として有する資産を輝かせる 小林製薬の組織と人材の強みを活かすDX戦略(本記事)
─ 根幹のテーマは「過去の成功体験からの脱却」BtoB 事業における“人×IT”の適用と組織強化
─ 顧客理解と顧客価値に強い人材を育てよ グロースX山口氏に聞く、強固なマーケティング組織を作る方法
長年かけて育ててきた組織の強みをDXでパワーアップさせていく
――はじめに、石戸さんがCDOとして小林製薬にジョインされることになった経緯をお聞かせください。
石戸:小林製薬では、外部環境の変化やテクノロジーの進化、お客様のニーズの多様化を受けて、2021年からDXの必要性を社として掲げ、全社を挙げたDX戦略に取り組んでいます。縁があり戦略アドバイザーとして小林製薬のDX戦略に携わるようになったのは、2021年夏頃のことです。定期的に会議に参加し、DX戦略の方向性が間違っていないか、走っているプロジェクトをどう前進させていくか、DXやデータ、テクノロジーの領域で経験がある立場から客観的な意見を提示していました。
今回、正式にCDOとしてジョインした背景には、小林製薬のDXにかける意気込みや可能性に触れる中で、次第に外部から断片的かつ表面的に関わることに対する歯がゆさを感じるようになったことがひとつあります。もう少し深く戦略の実行のフェーズにも関わりたいと思い始め、社長とDX戦略のビジョンを確認し合った後、2023年1月からCDOとして入社するに至りました。
――小林製薬が進めてきたDX戦略の概要も教えてください。
石戸:小林製薬には、新商品や業務改善のアイデアを全社員で提案する文化があります。これは「アイデア提案制度」と呼ばれるもので、40年以上続いてきた当社ならではの文化です。実際に、昨年は年間で約5万8,000の“あったらいいな”が挙げられており、社員一人ひとりの主体性と行動力は、小林製薬の大きな競争力となっています。これは、他社が真似しようとしても、そう簡単に一朝一夕で真似できるものではないでしょう。
DX戦略の一つではこの“あったらいいな”の制度にデータやAIを掛け合わせ、個人のアイデアや経験値だけに依らない形で、アイデアの創造を高度化していくことを目指しています。商品アイデアに限らず、ヘルスケア領域での新規事業展開、マーケティングDXにも繋げていく考えです。並行して、デジタル人材の育成および強化、データや知見・スキルの共有を目的にした社内システムの共通基盤構築も行っています。