6つのステップで顧客起点のマーケティング改革に着手
BtoBのマーケティング思考となっていた状態から、市場でとりわけ重要な高校球児=Z世代をメインターゲットに据えたBtoCのマーケティングへ。この改革に向けて、横山氏が提案したのは、西口一希氏が説いている「顧客起点マーケティング」だった(参考書籍)。
横山氏の提案の結果、主要カテゴリーである野球用品で「顧客起点マーケティング」への取り組みが始まった。まずはミズノのスパイクのイメージ作りに着手するべく、ロードマップとして6つのステップを定めた。

最初のステップでは現状分析と課題の整理を行い、2つ目のステップで市場を分析。3つ目のステップではユーザーヒアリングをし、その内容を基に4つ目のステップとしてカスタマージャーニーマップを作成。そして5つ目のステップではファネルやKPIを作成・設定し、コンセプトを定めた上でステップ6のクリエィティブ企画を実行する、という流れだ。
まず現状分析では、関連部署の社員から問題や課題を収集・整理。その中で自社の強みとして挙がったのは、商品を開発する環境である。ミズノには、長きにわたって野球・ソフトボール製品を作ってきた実績から、材料選定ノウハウがある上に、自社工場が存在する。こだわり抜いた商品を作り上げられる点は大きな強みといえる。
一方で課題として出たのは、「シルエットやデザインの改善」だ。Z世代向けに訴求するためにはもっとスタイリッシュなデザインが良い、などの意見が寄せられたという。
高校生へのヒアリング調査で新たな発見が
次に行った市場競合分析では、自社と他社のプロモーションの傾向を掴んでいった。ミズノのプロモーションについて「これまでは、商品のみに寄ったビジュアルを作っていました」と横山氏。
一方で、他社の広告を俯瞰して見ると「スパイクの軽さ」「幅の広さ」など各社が持つ機能的な強みに即した訴求が多かった。そこで3つの差別化戦略(手軽さ/便利さ、高品質/高技術、個別ニーズに対応)に照らし合わせ、ミズノでは「商品の品質(商品軸)」を訴求することで差別化を図ろうという、広告表現の方針も定まっていった。
そして3つ目の顧客分析のフェーズでは、高校生約400名に定量調査。さらに30名を対象にヒアリングをし、定性調査=N1分析を行った。
「N1分析で意識したのは、参考とした『顧客起点マーケティング』の書籍に記載されていたように属性を分けることです。今回は対象が高校生だったため、調査会社がデータを保有しておらず、非常に難易度が高かったです。学校まで足を運び、ミズノであることを伏せつつヒアリングを進めました」(横山氏)
こうして、ブランドスイッチの基準をはじめとする顧客の心理を深掘り、大きな施策効果の見込める属性や需要を探っていったという。心理的な部分の言語化に苦戦しつつも「新たな気づきもあった」と横山氏。「ミズノのスパイクについて、社内からはデザイン面の改善の必要性が聞かれた一方で、ユーザーからは『スパイクも他の用具も、ミズノはすごくかっこいい』という声を何件もいただけました」と調査での発見を紹介した。

「ミズノだからこのスパイクを履いています」というロイヤルユーザーが存在する一方、他社のスパイクは「軽いから使っている」という声が多かった。「ミズノが好きなので、もっと軽かったらブランドを変える」という意見も出たことで、ブランドスイッチの起点を発見できた。