一目で着用イメージが浮かぶ!わかりやすさを重視した訴求
分析の結果を踏まえ、カスタマージャーニーマップやファネル・KPI設定のフェーズを経てZ世代向けリブランディング施策の段階へ。社内での理解を得た後ターゲットを策定し、クリエィティブ面では“自分事化”をキーワードにコンセプトを詰めた。
この時「言いたいことは一つに絞る」ことを意識し、伝わりやすさを重視した。訴求対象である高校生がパッと見て「これは自分のためのものだ」と理解できるように、広告ビジュアルでは、野球のユニフォームを着た高校生を採用。加えて、ブレイクダンスや“スパイクを忘れろ”というキャッチコピーを用いて「軽さ」「履いたらどうなるかというイメージ」をビジュアルで表現した。

これらを届ける際に主に用いたのは、SNSの広告だ。また店頭にはQRコードを設置し、店舗とWebを行き来できる仕組みを設計。これはN1分析によってわかった「高校生は店頭での購入が多い」ことを踏まえての仕掛けだったという。この一連の施策の結果として、コロナ禍前を大幅に超える売り上げを達成した。
その後、キャッチャーミットも同様にリブランディングを実施。スパイクのリブランディング施策で「ビジュアル認知は高いが、商品名がわかりづらい英語のために覚えられていなかった」という反省を踏まえ、ミットでは「號(さけび)」というわかりやすい名前を採用した。

またキャッチコピーには、“掴むのは信頼だ”というフレーズを設定。これは、N1分析で明らかになったキャッチャーの「チームメイトの信頼を得たい」という心理を組み込んでいる。こうしてミットのリブランディングも成功し、店頭からなくなってしまうほどの大ヒット商品となった。
重要なのは、マーケター自身がユーザーの声を聞くこと
今回紹介したリブランディング施策について、横山氏は「要因として商品が素晴らしかったことや、プロ選手が身につけてくれて広まったこともあるのですが、それらを差し引いても顧客起点マーケティングの力を実感した取り組みとなりました」と振り返った。また、この改革を始める際、社内の協力や理解を得られるようにまずは自分自身の担当する業務領域で成果を上げて信頼を獲得していったこともカギだったと加えた。
顧客を起点に考えると、訴求を誰に向けて行えば良いかが明確となり、ビジュアルにも落とし込みやすい。また社内の会議でも「顧客はどう思う?」という言葉が飛び交うようになり、皆が顧客を一番に考える意識を持つようになった。加えて社内で提案を行う場面でも、実際に顧客がどのように考えているかをベースに話ができるため、客観的かつ説得力が増した議論ができたという。
最後に横山氏は、「顧客起点マーケティングにおいて重要なのは、顧客を理解するために行うN1調査です。今回の事例を通して、少なくとも一年に一度はN1調査に取り組み、マーケター自身がユーザーの声を聞くことが必要だと痛感しました」「定量調査は業者やツールに任せる選択肢もありますが、定性調査はオフライン・オンライン問わずマーケター自身が行うべきだと感じました」とセッションを締めくくった。