「自分はこんなに頑張った」を断ち切る
――インポスター症候群(自分を過小評価する心理傾向)という言葉もありますね。私自身もその傾向がありましたが、以前、香川さんとその上司の方の対談取材をしたことで吹っ切れた経験があります。子どもがいると、取材を入れるのが怖かったのですが、「無理なら代わってもらえばいい」と言ってもらえて。
香川:日本は失敗できないと思っている人が多いですよね。でも、まずはやってみたらいい。難しければ、信頼関係があるチームでサポートし合えばいい。それによって成長できるのです。自信がない女性が多いのだとしたら、大切にしたい価値観ですね。
鈴木:その環境をつくるためには、上司の世代が「自分はサポートなしでやってきた」という気持ちをどこかで断ち切らないといけないですよね。「そんなことで仕事を休むの?」と言う人は、おそらく自分も上司にそう言われてきたのだと思います。でも、それが本当に正しいのか。休まずに頑張ってきたことは否定しませんが、そのつらさをそのまま部下に強要したいのかどうかです。休みを取れるほうがいいなら、その方向に進んでいったほうがいいのではないでしょうか。
――価値観をアップデートするのは大事ですね。しかし、なかなか切り替えられない人も多いと思います。古い価値観にとらわれないように意識していることはありますか。
鈴木:私は以前、メンバーの女性に「愛子さんは結婚していないし子供も産んでいないから、この大変さがわからないんですよ」と言われたことがあります。そのときは悲しかったけど、「確かにわからない」と思いました。その経験もあったので、今は最初から「わからない」と伝えて話を聞くようにしています。
香川:ロールモデルがいない、気軽に相談できる人がいないという悩みは多いので、そういった悩みを共有できる場を作れたらいいなと思っています。いろいろなライフステージの人と話す場があれば、私自身も価値観をアップデートできますし、様々な考えを持つ人と話すことで問題の解決に近づくかもしれません。ちなみに、デジタル業界の女性達のためのサポートネットワークの立上げを計画しています。
どうすれば自分らしくキャリアを築けるのか
――最後に、今後さらに流動的な時代になっていく中で、どうすれば自分らしくキャリアを築けるのか。考えを聞かせてください。
鈴木:私は、キャリアとは「自分らしさを探す道」だと思います。私は編集者になりたかったけど、少し違うけど言葉を扱うコピーライターになって、映像を作る仕事などもやりました。事業部の仕事はできないと思っていたけど意外とできました。「自分はこんなこともできるのか」と、いろんな面に出会えたのです。新しい役職でも、業種でも、事業でも、あまり悩まずにやってみて、合わなかったら次を探せばいいと思います。
香川:私は「仕事から学びたい」と思い続けて今に至ります。子どもが生まれて時間の感覚が変わっても、働く中で得られるエネルギーや充実感は大きい。記憶が飛ぶほど忙しかった時期もあるし、母親として大失敗したこともたくさんありますが、続けることで良いことがありました。私もたくさん失敗しながらやっています。勇気をもって、やりたいことを諦めずに続けていってほしいですね。