アミューズの共通ファンID基盤「A!-ID」
芸能プロダクションのアミューズでは、所属アーティストのグッズ購入が可能なECサイトやファンクラブ、オンラインライブの配信など様々なサービスを展開。そして、このサービスにこそ本セッションの肝となる課題があった。
というのも、各サービスのシステムをそれぞれ別のタイミングで、異なるベンダー企業に開発を依頼した結果、同じユーザーでもサービスごとに別のアカウントを発行しなければならない事態に陥っていた。そして、アミューズのCS事業推進部長・鄭(チョン)氏は「これは解決すべきだ」と考えた。
「ファンの皆様の視点に立てば、1つのIDでグッズもライブチケットも購入できるほうが手間を省けますし、アミューズとしてもファンの皆様の真の姿をきちんと認識できていない状況は問題でした」(鄭氏)
こうした背景から、同社では各サービス共通のID基盤「A!-ID(エーアイディー)」を構築。A!-IDを基点にデータ統合・分析を進め、ファンの体験価値向上に努め始めた。
データ活用の鍵は「スモールスタート」!
しかし「言うは易く行うは難し」で、これまでサイロ化されていた各種データを統合し、活用できる状態にまでもっていくことは容易ではなかっただろう。モデレーターの内野氏もこう語る。
「アミューズさんに限らず、多くの企業にとって年々複雑化するデータ環境において、複数のデータソースの統合を踏まえたデータ活用のハードルは高くなっている状況といえます」(内野氏)
それゆえA!-IDの構築から実際のデータ活用までの過程には、マーケターにとっての含蓄が富んでいるというのだ。
内野氏はデータ活用のハードルが高まっている四つの要因を指摘する。
2.データや業務が部門横断するので、複雑な部門間調整が発生する
3.それにともなって予算の主体が不明瞭になってしまう
4.最終的にデータ活用プロジェクトのリスクが高まってしまう
「これら四つの要因から、あらゆるフェーズでクリアするべき課題が山積して身動きが取れない企業も少なくないのです。そんな企業のマーケターに勧めるのがスモールスタート型のアプローチです」(内野氏)
内野氏のいうスモールスタートとは。本来であればデータ収集から施策への落とし込みまでにはいくつものステップを踏む必要があるが、それをまずはスピード優先の観点で、手元で確保し得る範囲のデータに限定して、「データ分析」「可視化・意味化」「施策設計、実行」にフォーカスして、小規模でも良いので成功事例をスピーディーに作っていく。
また、スモールスタートで進めることで時短以外に様々な恩恵がある。たとえば「社内の関係者のうち、プロジェクトに既に前向きなメンバーは誰で、説得材料をそろえれば仲間になってくれそうな人は誰か」「プロジェクトを進める上で今後、大規模なシステム改修が必要になるのか」など、思わぬ気付きや課題が見えてくるというのだ。