数多くの個票データを目視で確認
では、アミューズでは実際にどのようにプロジェクトを進めていったのか。まずは「データ統合」だ。プロジェクトの初期メンバーは3人(内野氏を含めると4人)だったという。

「まずはECサイトやファンクラブなど各サービスの蓄積データを一ヵ所に集めて整理、つないでいきました。お客様のたどる遷移を表にして、一人ひとりがどのような動きをしているかを目視で見ていったのです。多くの個票データを一件一件見る作業は本当に大変でしたが、ファンの皆様の姿がより精緻に見えるようになりました」(鄭氏)
データ統合作業を通して、改めて各サービスの蓄積データがどういう状態で管理されているのかわかったという。さらに「現時点でどのような分析が可能で、今後本格的に分析を進めるためにはデータをどう整えれば良いのか」もより解像度高く見えるように。
「スモールスタートのメリットは、とにかく分析を進めていくことで物事の解像度が上がっていって、いままで考えていなかったような新たなテーマや課題が見えてくる、ということです。最初から方向性を固めてしまうと気付けないことがたくさんあるのです」(鄭氏)
また、データ統合の副産物としてメンバーの学びにもつながった。初期メンバーはマーケティング未経験者がほとんどだったが「データ統合を進める過程で、メンバー全員が自然と分析思考を獲得していったのです」と鄭氏は語る。
自らカスタマイズできるデータ基盤を構築
スモールスタートでデータ活用プロジェクトの方針が見えてきたら、本格的にデータ基盤の構築に着手。元々デジタル畑で様々なサービスのシステム開発を経験してきた鄭氏は「A!-IDのプロジェクトにおいても、初期に定義した方針のままガチガチなシステムを構築してしまうと、やがて大幅な改修が必要になる」と理解していたという。
「単にシステムを開発するのみならず“自走できる”状態を目指したかった」と鄭氏は語る。
「理想は分析したいテーマが深まったり、変化したりした際に、それに合わせた改修を都度、外部のベンダー企業に頼らず自分たちでカスタマイズができる状態。ただ、目的に沿ってシステムを修正できるメンバーは当時、いませんでした」(鄭氏)
データ活用に長けたマーケターを新たに採用することも検討したというが、アミューズの社風を理解している社員が取り組んだほうが良いと判断。社内スタッフの育成と自分たちでカスタマイズ可能なシステム構築を並行して進めることにした。
その結果、データ統合ツールのMattilion、データウェアハウス(※)のSnowflake、BIツールのTableauの三つのツールを採用。Snowflakeで管理しているデータをMattilionに連携させ、Tableauのダッシュボード上でデータを見られるようにシステムを開発した。
※データを保管しておくデータベースのこと
内野氏はデータ基盤のシステム開発に関し、「将来的なデータ活用における“試行錯誤”に耐え得るよう、カスタマイズ可能なデータ基盤の構築を他の企業も目指すべきだ」と助言する。
データを加工していく中で、必ずトライアンドエラーは発生する。たとえば「ここで遷移先が分岐した。その先でも新たに分岐した。なら、データソースをもう一つ増やしてみよう」といった風に。つまり、最初から完成形を立てるのは困難であり、途中でシステム改修することは前提で考えるべきなのだ。だからこそ、アミューズのように自らシステムをカスタマイズできるデータ基盤を構築したのは「良い選択だった」と内野氏は語る。