「おいしいお茶を淹れる体験」への科学的アプローチ
青栁:お茶の事業を始めてから「おいしいお茶の淹れ方ってどうやるんですか?」ってよく質問されるようになりました。
これがお米の炊き方だったら、カップで量を計って、炊飯器の目盛り通りに水を入れればおいしく炊けますよね。でも、急須にはカップも目盛りも付いていないわけです。だから、茶葉を何グラム、何度のお湯を何ミリリットル入れるのか、何分待つのかをすべてレシピ化しました。
磯山:数値化することで誰でもおいしいお茶を淹れられるようになるわけですね。

青栁:「おいしい」って科学なんですよ。お茶を科学的に表現するためにはレシピが必要です。さらに、そのレシピが道具自体に組み込まれていれば、消費者は淹れ方を学ぶ必要すらありません。
だから、我々が開発した透明急須はすり切り一杯で120ミリリットルが入るようになっていて、茶葉を4グラム計ってお湯を入れれば、おいしいお茶が淹れられるようデザインしています。
磯山:道具のデザインから見直すのは、デザイナーならではのアプローチですね。
青栁:現代において、茶葉からお茶を淹れて飲もうとすると非常にハードルが高いんです。淹れ方以外にも、急須を食洗器で洗えないとか、割れやすいとか、熱くて持てないだとか。これでより多くの方に広めていくのは難しい。
ソフトとハードの両面を見直して課題を言語化し、新しいスタイルを定義付けする、というのが、バトンを次世代につなぐために必要なアクションです。そこには科学を取り入れたデザインでのアプローチが有効なのではないかと考えています。
知識や技術を押しつけがましく教えるのではなく、ビジュアル化や言語化、数値化を駆使して、いかに簡単にお茶情報をインストールしてもらえるかを考えています。
最低限の要素を抽出し、伝えたいことに集中させるデザイン
磯山:店舗や商品パッケージのデザインにはミニマリズムが感じられますが、デザイン面でのこだわりはありますか?
青栁:なんでもあるような詰め込み方ではなく、ソリッドに抽出されたものを表現するという我々の考え方が色濃く出ているかもしれません。
たとえば、店舗の写真を見てもらうとわかるのですが、ほとんどテキスト情報のないミニマルなデザインにしています。これは体験に集中してもらう環境を作るためです。
磯山:デザインやスタイルに関するお客様の反応はいかがですか?
青栁:海外の方も、日本の方も肯定的に受け入れてくれていて、国内外で賞もいただきました。伝統的な茶道を体験したいという海外の方もいらっしゃるとは思いますが、今後僕らがグローバルに展開していく場合、日本の良さを抽出したグローバルスタンダード的なデザインで見せていくほうが、レバレッジが効きやすいのではないかと考えています。
今はそのための社会実験というか、仮説検証中のようなところです。
磯山:お二人でブランドを作り上げていく上で、デザイナーとしての意見が衝突することはないのでしょうか?
青栁:デザインの軸が大きくずれていないので、あまり衝突することはありませんね。どこが重要でどこがそうでないかはお互いにわかっているので、重要なポイントさえクリアしていればその他は互いに譲ることも多いです。
谷本:ただ、それぞれのやりたいことや思い、熱量が受け手に伝播するくらいには入れ込むようにしています。デザインには、個人的なエゴや主張を毒のように入れるのは必要だと思うんですよ。やはり滅菌されたエゴや主張のないものではインパクトを与えられません。
ブランド体験として我々が是とするものを提供することで、うまい具合にエゴや主張が入ってきて、それを「いいよね」と言ってくれる人がファンになってくれているのだと思います。