生き残るテクノロジーの条件「雑さに対する柔軟性」とは?
實川:トレンドに乗るだけでなく、深津さんのようにキャリアの本流に生かし切るにはどうすればよいのでしょうか?
深津:僕は、トレンドに乗ること自体を目的だと考えていません。前述の通り新しいテクノロジーが生活をどう変えるのかがメインテーマであり、必然的に前例のないテクノロジーに触れることになります。
實川:先ほどの「深津流テクノロジーの法則」を見つけるに至った経緯もお教えください。
深津:様々なテクノロジーと接する中で、生き残ったもの・死んだものそれぞれの特徴を普遍化することで法則として抽出するに至りました。テクノロジーの価値は触ってもらってなんぼ。みんなが触れるかどうかが、テクノロジーそのものが生き残る前提条件です。
僕の中では3つ目の法則として、「雑さに対する柔軟性」が非常に大事だと考えています。使い方を正しく理解した時に120点のベストパフォーマンスが出せるのは、プロフェッショナル用のツールです。対して、初見の人が雑な理解と運用で間違えながら使っても80点くらいの「なんとなくいい成果」が出るのが、広く流行り生き残りやすいツールだといえます。
實川:なるほど。これはあらゆるサービスに適用できそうですね。
業界固有のスキル習得に、こだわることなかれ
實川:今回のテーマである「AI時代にデザイナー・マーケターがやるべきこと」について、深津さんはどう思われますか?
深津:僕が進路相談を受けた時に伝えるのは、「一ヵ所に体重をかけるな」ということです。ある一ヵ所にすべての体重をかけたら、底が抜けた時に取り返しがつかなくなります。特定のテクノロジーやトレンドに自分の人生や財産を預けるな、と。

深津:加えて、大事なのは「スケール性」「アセット性」「横展開性」の3つです。このすべてが満たされる場所にこそ投資すべきだと思います。なぜなら、職業に関わらずこのポイントを押さえておくことで、別の業界でも応用が可能となるからです。
スケール性とは、一度上手くいったら際限なく伸ばせる領域のこと。アセット性は、それを一度作ったら一生使い倒せるのかどうか。横展開性は、たとえ今の仕事をクビになって、まったく違うことをやる際にも転用がきく知識・スキルを優先して学ぶ、ということです。
たとえばプログラミングなら、「個別の言語」の習得はリユースしにくいスキル。このため優先度が低いです。一方、他の領域でも応用できるモデリングや意思決定や分析の仕方は、優先度が高くなります。要するに、自分のキャリアやスキルセットと業界が“密結合”になるような実装をしない、ということですね。