旅行、教育、建設、採用、業務効率化、スマートシティ……増え続ける世界
山田:ANAさんとも取り組みを進められていますが、そちらはどのようなきっかけだったのですか?
田畑:パラリンピックの公式アプリを開発した時に出会いがありました。ANAさんの主事業は飛行機で人や物を運ぶビジネスです。しかしその需要を広げるためには、普段から旅行に行かない層にも旅行の楽しさを知ってもらい、潜在的な需要を喚起する必要があると伺ったのです。そこで、「マイルで旅の入り口となる体験ができる世界を作るのはどうですか」と「ANA GranWhaleプロジェクト」をご提案しました。
マイル会員向けの旅の入り口体験となるサービスで、ANAファンの方たちが次の旅を検討したり、旅好き同士で楽しむようなコミュニティが活発になったりすれば、新規会員獲得にもつながると考えています。
山田:他にはどのようなご相談がきていますか。
田畑:発表済みのもので言えば、JCBさんのご紹介で、和洋九段女子中学校高等学校と「メタスクール体験プロジェクト」を開始することになりました。修学旅行先で撮影した写真を素材にして仮想空間を作り、自分たちが学んだことを記録した世界を作り、文化祭などで発表します。見学者が体験できることはもちろん、来年以降に修学旅行に行く生徒は体験をともなう事前学習ができるわけです。
他にもゼネコンとの協業もありますし、自動車メーカーなどプロダクト系の会社や、国内外のスマートシティ事業などもあります。意外なところだと採用や人事系の会社とのプロジェクトもあります。自分にどんな就職のポテンシャルがあるのか、可能性を可視化して就職活動をより良いものにするという取り組みです。
社内向けのメタバースオフィス的なシステムで、ゲーミフィケーションを用いて目標をゲームライクに管理することで「労働」から「体験」に変え、モチベーションを上げていく例もあります。そもそもゲームの構造は、最後に成功するまでは失敗の連続です。それでもおもしろいと感じてもらう工夫を凝らすのがゲームです。ルールや操作、世界観で失敗のプロセスを楽しい体験に変える。その観点から、ゲーミフィケーションを求める企業は今後も増えるでしょう。
「体験」は既に、デジタル先行になっている
山田:今後、特にどのような企業と一緒にやっていきたいとお考えですか。
田畑:ゲームやメタバースも含めて、デジタル空間を積極的にマーケティングに活用したい企業なら、どなたとでも一緒にやりたいですね。そこの感性はとても大事にしています。現代では、小さい子どももタブレットやスマートフォンなどを使います。つまり、子供から大人まで、世の中の様々なものと出会う最初の接点は既にデジタルデバイスです。情報に触れる順番は現実よりもネットが先行するのはもう常識ですが、今後は商品などの体験も、まずデジタルで体験して、気に入ればその後にリアルでも触れていくことが普通になっていくと思います。そう考えると、デジタル領域で積極的にマーケティングをしない会社に未来はありませんよね。
山田:マーケティングや体験のタッチポイントも、まずはデジタルで作るべきだと。
田畑:はい。活用しない手はありません。ゲーム世界もメタバース世界も、企業にとってはマーケティングフィールドですよ。技術的にも、メタバース内や、そこで行われたことのデータが改ざんされずに記録できるよう進歩してきました。そのおかげで世界をもっと開放できるようになってきています。
山田:体験でいうと、メタバースはSNSの延長として、人が集まる場所を2Dから3Dにして動きをつけたことが大きかったと思います。
田畑:メタバースはSNSを空間化していますよね。現在のオンラインゲームの多くもSNS型で、ゲーム内のつながりを楽しみます。たとえば「フォートナイト」は100人でバトルロイヤルをしますが、勝つのは1人。従来のゲームであれば、プレイヤーはみんな最後の勝者になるためにゲームをするはずです。でも実際は、そんな人は多くないですよね。どちらかというとみんなで集まって、レクリエーションのように時間を楽しむ場になっています。そうするとベースになるのはやはりコミュニティです。ユーザーが自分の好きな居場所をたくさん持つというライフスタイルが、これからの仮想世界のあり方だと思っています。
山田:今後メタバースの世界はもっと楽しく広がり、リアルとの境界線が薄くなっていきそうですね。本日はありがとうございました。
