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田中洋が紐解く、ビジネス成功のキーファクター

【後編】星野佳路氏の中にある意思決定の軸とは?星野リゾートのアグレッシブかつ慎重な経営に迫る

家業を継いだ者が持つ使命感。星野代表が持ってきた確信

田中:リゾナーレ八ヶ岳の運営を引き受けられた後にも、いろいろ重大な意思決定をされてきたと思います。その意思決定の際もやはり慎重でいらっしゃるのでしょうか。

星野:基本的には慎重派です。ただ、その慎重さがどこから来てるかというと、ベンチャービジネスとして星野リゾートを始めたのではない、という出自にあると思います。

 星野リゾートは、やはり家業なのです。自分でリスク取って事業を始めて、早く上場させようというスタートアップが持つ成長マインドは、私にはありません。

 家業を4代目として継いでる人間が持つ使命感とは、とにかく潰さないことです。潰さないで、次の世代に渡していくこと。これが一番大事なミッションです。ですので、成長するということよりも、潰れない経営をしたい。つまり、私の性格的に慎重であるというよりも、企業が抱えているミッションから来る慎重さだと思います。

田中:結果だけを見ていると、慎重というよりは、それは大胆に色々やってこられたという印象があります。星野さんの思考やデシジョンの軸になっているものは何でしょうか。

星野:私は1984年から1989年までアメリカにいまして、そこでホテル業界の大きな変遷を目の前で見ることができました。あれは、ちょうどバブル崩壊の時期と重なっていて、日本のホテル業界の地位が急落した頃ですね。一方で、アメリカの大手ホテルチェーンは、急速な成長を遂げていました。彼らの勢いがアメリカの都市部から地方にまで広がっていくのを見た時、私の中で直感的に、確信のようなものが生まれました。

 「彼らは必ず、日本の地方にも来る。したがって、日本の温泉旅館は、地方に閉じこもっていては、絶対に生き残れないことになる。つまり、自分も家業を潰さないようにするためには、彼らと対等に戦っていく力を持つ以外に方法はない」といったものです。こうしたことを私は1989年日本に帰ってくるときに確信していました。

 実際に、星野リゾートの研修では、仮想の競合相手として外資系の高級ホテルチェーンを設定しています。1990年代の後半から、その仮想の競合相手に負けないためにはどうすべきかを考えていました。

人材不足の時代、観光産業にようやく巡ってきたチャンス

田中:企業資源の活用についても、どのように判断されているかを伺いたいと思います。

星野:企業資源というと、私たちの場合は、人とお金だけになってしまいます。それしか所有してないですからね。やはり、最も重要な資源は人材でしょう。人材不足は世界的な問題です。人員をどう確保し、維持して育てるかが、これからますます大事になってきます。

 また、人材に重きが置かれる今の時代の流れは、私たちにとって大きなチャンスでもあります

 私は、観光産業の労働環境が他の産業よりも劣っていることに、ずっと抵抗を感じていました。観光産業においては、給料は低いし、休みは少ないし、職場の環境も他の産業と比べて充実していません。これらに対して「観光産業だから仕方ない」という雰囲気さえありました。

 とはいえ、経営者としては、自分の会社の社員だけ待遇を良くするわけにはいきません。競争環境にあるわけですから、「うちの社員にはいい思いをさせたい」といってマーケットバリューよりも高い給料を払うわけにはいかないのです。そうすれば、自社の競争力を落とすことになりかねません。

 マーケットで人材不足が起きている今は、労働環境を改善できるチャンスです。今こそ、社員の労働環境を良くする。今こそ、他の産業と比べても劣らないレベルにまで社員の待遇を引き上げる。戦略として妥当性をもって、こうしたことに予算を重点的かつ大胆に振り分けることが今やっとできています。

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星野リゾートの次なる転換点は、米国進出

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この記事の著者

田中 洋(タナカ ヒロシ)

中央大学名誉教授。東京大学経済学部講師。京都大学博士(経済学)。マーケティング論専攻。電通で21年実務を経験したのち、法政大学経営学部教授、コロンビア大学客員研究員、中央大学大学院ビジネススクール教授などを経て現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2023/08/01 18:13 https://markezine.jp/article/detail/42688

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