千葉ロッテの考える世代別のストーリーとは?
千葉ロッテマリーンズでは、どのようなストーリーを描いてファンとのエンゲージメントを高めているのだろうか。高坂氏は、同球団の実情を踏まえたストーリー作りについて語った。
「千葉ロッテマリーンズの観客のボリュームゾーンは40代で、野球のルールも理解している人がほとんどです。球団には佐々木朗希選手も所属しているので、その世代の方たちへのコミュニケーションは比較的行いやすいです」(高坂氏)

しかし、20代を中心とした若年層には、純粋な野球軸のコミュニケーションだけではなかなか集客が難しい。そのため、野球のプレーとは異なる切り口で楽しめる動画をSNSに投稿したり、「BLACK SUMMER WEEK」というファッション性やカルチャー性を重視したイベントを開催したりしている。
このような若年層向けのストーリーを考えて取り組みを行った結果、2023年の有料チケット購入割合では20代の売れ行きが一番良いという。また、ユニフォームの売上も20代を中心に好調な推移を見せているとのことだ。
このようにファンに合わせて様々なストーリーを作る取り組みが、スポーツビジネスでは加速している。
平地氏は「企業と球団のストーリー作りについてはどう考えているか」と高坂氏に質問。これに対し高坂氏は、数百社を超える企業とスポンサーシップに取り組む中で見えてきた成功法則について語った。
「スポンサーが大切にしていることや打ち出したいことが明確で、それが千葉ロッテマリーンズの持つ想いや特徴とリンクすれば上手くいくと思っています」(高坂氏)
千葉ロッテがストーリーの重要性に気づけたきっかけ
ここまでストーリーの重要性について語ってきたが、千葉ロッテマリーンズも初めからストーリーの重要性に気づけていたわけではない。2019年頃まではとにかく目の前の勝利を目指すこと、収益改善をすることで手いっぱいで、ストーリーまで目を向けられる状況ではなかった。
結果として2018年、2019年と黒字化には成功したが、高坂氏は「次のフェーズに向かうには、僕らがどこに走っていくのか、ファンやスポンサーと共有できるストーリーが必要だと思った」という。
その中で、社会はコロナ禍に突入。無観客でビジネスとしては苦しい状況に陥ったが、その期間に球団として打ち出すストーリー作りに向き合うことができた。そしてたどり着いたのは「新たな常勝軍団に」というビジョンだ。
「挑戦する姿勢、その中で起こる熱狂、勝利で生まれる結束を見せる必要があると思っていました。首都圏にはスポーツに限らずたくさんの魅力的なコンテンツがあり、中途半端なものを提供しても選ばれません。だからこそ、プロスポーツで勝ちの姿勢を共有していくことに一生懸命取り組みました」(高坂氏)
菅原氏もこのビジョンについて「勝ちますというのは大変だし確証できないが、勝ちに行く姿勢を見せるという守れる約束を立てたことが重要」と評価した。