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パーパスに対する目は一層厳格に
――金箱さんはカンヌライオンズ2023でファイナリスト審査員(※)を務められたそうですね。審査を通じて捉えた今年の傾向を教えてください。
今回私が感じたのは、クリエイティビティが持つ可能性の拡張です。今やクリエイティビティはインダストリーにおける重要な要素です。「クリエイティビティを使って社会をどのように進化させることができるのか」「ビジネスにいかなる成長をもたらすか」といった流れを強く感じました。
※全体のエントリーから受賞候補作品を絞り込んだファイナリストを選出する審査員のこと
また、パーパスに対する審査の目は少々厳しくなっているとも感じました。パーパスはカンヌライオンズ2022でも非常に多く出てきた言葉です。昨年は32部門で4作品を除く全作品がパーパスブランディングに関連したものでした。
今回私が審査に関わった範囲を見渡しても、社会的なイシューを捉えている作品は多かったです。パーパスブランディングはブランドを成長させてるものですが「それは企業の本心か?」という指摘も聞こえます。審査員は「賞のための目標設定ではなく、そのアクションが社会に真に影響を及ぼし、より良い変化を実際に起こしているか」といった観点で精査する必要がありました。
機能訴求に特化した作品がグランプリに
パーパスなら何でも良いわけではない──このことは、今年フィルム部門のグランプリに選ばれたAppleの作品によく表れていると思います。一旦送ったメッセージが取り消せることを伝えるシンプルでシャープかつチャーミングなアイデアです。
フィルム部門のプレジデント審査員であるブルーノ氏は、このグランプリのキーワードとして「シャープネス」「フォーカスドアプローチ」「クレバーなツイスト」を挙げていますが、その通りだと思います。AppleはCMフィルム部門でゴールドも獲得しました。子供の運動会を舞台に、手ブレすることなく撮影可能なカメラアプリを訴求した作品です。「子供の姿を少しでもきれいに撮影したい」という親の中にあるインサイトを捉え、Apple製品なら価値が提供できることを魅力的かつシャープに伝えています。
どちらの作品も明確な機能訴求であることがわかるでしょう。企業の意思はプロダクトとして表れる。Appleではプリンシプルな企業姿勢が貫かれているように思えます。
フィルム部門のもう一つのグランプリは、自殺者たちが生前最後に撮影した写真をまとめた「THE LAST PHOTO」という動画です。こちらは社会課題にアプローチした、クリエイティビティが持つ可能性の拡張を感じる作品です。その年のグランプリの在り方は、その年のイシューやテーマを明確にするものであり、ある意味では来年のカンヌライオンズに向けたメッセージでもあるのです。