家具の訴求と企業意思が伝わるイケアの作品
――フィルム部門にノミネートされた作品のうち、金箱さんの印象に残っているものはありますか。
個人的に好きだと感じたのはイケアの作品です。自社の家具について「誇り高き二番目」という表現を使っています。「お父さんの膝の次に良い椅子」「お母さんの抱っこの次に素敵なベッド」というメッセージです。
イケアはフィルム部門の常連企業です。家具の魅力を訴求する非常にシンプルな表現ですが、育児に奮闘する父親と母親を平等に描き、彼らを絶対的に肯定しています。ジャーナリスティックな視点を持ち、現代の社会課題を的確に描いてコミュニケーションをアップデートしている。その姿勢が素晴らしいと思います。自社のビジネスを越境してパーパスを表現するのではなく、自分たちの“本丸”で勝負している点が洗練されていますよね。
パーパスウォッシュと言われる表現ではなく、自社の商品が提供する機能の訴求でパーパスを表現している点がシンプルでシャープだと思います。プレジデント審査員がグランプリ作品に送った評価と近しい要素をイケアの作品にも感じました。
フィルムの強みは「抗えない快感」
――広告・マーケティングにおけるフィルムの重要性や役割をどのように捉えていますか。
フィルムは映像と音と時間を使って快感を生み出す不変のコミュニケーションツールだと思います。理性や先入観をすっ飛ばして人々へと訴えかける力があるのです。直感的に味方に引き入れてしまうとでも言いますか「このブランドが好き」「このブランドに投票したい」という変化を瞬時に生み出すことができる点にフィルムの強みを感じています。地上波やWebなど、フィルムが発信されるメディアが時代とともに変わっても、素材としてのフィルムが持つパワーは圧倒的でしょう。
もちろん「スキップされない」という注釈付きではあります。情報を一方的に発信するだけのフィルムは淘汰されていくのではないでしょうか。商品や機能を伝えたいという思いが先行すると、快感を生み出すフィルムとは距離ができてしまいます。フィルムにおいては、観る人に対するサービス精神が大切です。