解像度を上げなければ変化を見誤る
──アクションのヒントをお聞きする前に、2023年の見通しをうかがいたいです。ライフトレンドの発行を通じて、社会やビジネスにおけるトレンドを長年定点観察してきた御社だからこそ感じる変化をお聞かせください。
まず消費者の変化の度合いについてお話ししましょう。2023年よりも、コロナ禍に突入した2020年初頭から2021年のほうが、本質的な変化は大きかったと思います。そこで生じた変化がスケールする年がアフターコロナと呼ばれる2023年です。

よく「コロナ禍以前には戻らない」と言われていますが、一概にそう判断することは難しいと考えています。なぜなら変化のスピード感は人それぞれで、生活や価値観が大きく変わった人だけでなく、コロナ禍以前のままじっと耐えた人もいるからです。このように様々なパターンの人がいるにも関わらず、フォーカスが当たっているのは「コロナ禍で変わった人」なのではないかと。大局的には変化が起きているものの、人々の変化を解像度高く理解しなければ、変化そのものを見誤ると思います。
加えて、消費者の変化を語る際に欠かせないのがデジタル時代のパーソナライズです。たとえば今お話しした「コロナ禍で変わった人」と「変わっていない人」は、パーソナライズにより別々のメッセージを受け取るなどした結果、それぞれの価値観に偏っていきました。塊に収れんされた人々は、ほかの塊の人と交わりにくくなります。コロナ禍で外に出なくなったことや人と関わらなくなったことも、この流れを加速させました。
──その流れが進んだ結果、2023年はどのようなことが起こるのでしょうか?
たとえば同じメディアを見ていても、レコメンドされて受け取る情報は人それぞれです。自分が好きなものはどんどん好きになっていく一方、そうでない情報は受け付けなくなるかもしれません。ある意味、消費者の“わがまま化”が進んでいるとも言えるでしょう。
しかも「この人はA」ではなく「この人はこの場合はAだけど、別の場合はB」など、塊はオケージョンごとに細分化されてきており、ますます複雑になりつつあります。たとえばある女性の場合、職場では「会社員」でも家に帰れば「妻」や「母」であり、週末に友人と外出する際は「30代女性」など、いくつもの顔を持っています。また、外食という1つのオケージョンをとっても、その際の顔が母か30代女性かによって選択するお店も変わるかもしれません。
このように、人は価値観が多面的で、ニーズや優先順位も絶え間なく変化しています。人の一面だけを切り取りパターン化して理解するのではなく、変化し続けるニーズや優先順位に従った購買行動をリアルタイムで理解し、コミュニケーションしていくことが大切なのです。
──企業観点ではどのような変化が予想されますか?
日頃マーケターの方たちとご一緒する中で感じることは、パーソナライズによるステップの増加/複雑化です。インサイトを捉えて顕在化させたニーズを媒体で訴求することにより「そうだった、本当はこれが欲しかった」という気分を呼び起こす。このように、新しいマーケットの創出によって市場のトレンドを動かすことは、マーケターの醍醐味の1つです。
一方でパーソナライズは先に説明したように「人×オケージョン」を何百通りと考える必要があります。かなりの数を考えなければならないため、企業側の負担は大きく、またそれぞれのパターンに当てはまる人の数が少なくなるため、1つひとつの施策が持つインパクトは小さくなるでしょう。
──大きなインパクトを出すというよりは、細分化されたオケージョンに合った媒体で適切にメッセージングしていくアプローチになっていくということですね。マーケターは、これまでと違った手応えを感じるようになりそうです。
そうですね。ただ現状はパーソナライズと言っても、おそらく消費者の行動データを見て、条件×性別・年代だけで出しているだけで、価値観・オケージョンまでは考慮されていないことが多いように思います。
また、消費者だけでなく自社で働く従業員のことも考慮する必要があります。たとえば消費者へ良い体験を届けるために、従業員が残業続きでは持続可能とは言えません。両者にとって持続可能な方法でなければ、ビジネスは長続きしないだろうと。企業が顧客と価値ある関係を構築しながら成長を実現するには、製品や顧客を中心とする従来の戦略から、人々のライフを起点とした戦略に移行する必要があると考えています。消費者だけでなく、企業側のライフも考えることが大切です。
──パーソナライズのほかに、企業が着目すべきことはありますか?
テクノロジーの変化です。前々からあった生成AI(ジェネレーティブAI)が今年一気に注目されて市民権を獲得しました。これまでは1つの可能性としか捉えられていなかった生成AIが、今では活用しなければならないものとなっています。
