「再現性」が会社の資産になる
――約1ヵ月半で業務標準化と品質アップを同時に実現したわけですね。
中村:そうですね。これは仮説ですが、発信の品質が上がったことでお客様の期待も高まっているのではないかと思います。また、工数は以前に比べると約2倍になっていましたが、最近では忙しい時は件名だけChatGPTを使うといった優先順位づけを行い、時間を圧縮しながらの改善も進めています。
また、量と質のどちらを取るかはどの会社も悩むところだと思いますが、今は学習の機会も兼ねていますし、渥美さんが目指している1回で狙ったアウトプットを出せるプロンプトに近づけば工数も減少すると思います。さらに、今はハイコンテクストな部分がある日本語をプロンプトに落とし込んでいく段階ですが、これが組織知につながると考えています。人材の流動があっても再現性を担保できるようなった時に、本当の資産・成果になると思います。
――最後に、今後の展望についてもうかがえますか
中村:短期的には、セミナーのサマリーをまとめたホワイトペーパーや、軽めの読み物を制作する際にもChatGPTを活用しようという話が始まっています。
長期的には、分析への活用ができると嬉しいですね。マーケティング業務には必ず分析業務が発生します。様々なツールを使うのでデータのフォーマットもバラバラです。一つにまとめる工程を人力に頼っている側面があるので、今後生成系AIをより安心して使える環境ができるようになったらデータの統合に使いたいですね。欲を言えば、パーソナライズにも使えると助かりますよね。お客様の情報を扱っているので慎重にならざるを得ませんが、セキュリティ面がクリアになっていけば、可能性もゼロではないと思います。
――実際にChatGPTを扱われるお二人はいかがですか?
山田:フィールドセールスでもChatGPTの活用が少しずつ始まっています。インサイドセールスで作った営業のプロンプトをフィールドセールスにも展開して、誰もが活用できると良いと考えています。
山本:文章を考える上で、ワードや言い回しは人によって偏りが生じます。ChatGPTを使うことで違う切り口や、これまで使っていなかったワードが出てくるので、そこを活用しながら制作に活かしたいですね。
生成系AI活用の本質はチームでのプロンプト磨き
――渥美さんは、今回のお取り組みを振り返ってどうお考えですか?
渥美:今、話題になっているAI活用はコールセンターなど大量の業務を効率的にこなしていくようなテーマが多いかと思います。もちろん、ChatGPTでもそれは可能ですし既に着手している企業も多いです。一方、今回ChatGPTを活用した領域は「やったら成果が出るとわかっているものの、なかなか着手できない業務」です。業務をプロンプトが支援することで、高品質で再現性の高い活動が可能になります。未着手だった分、成果にもつながりやすいです。この発想でChatGPTを活用している会社は少ないと感じます。
また、AIと聞くと、正確に分析をして人間よりも正しい結果を出力できるものだと考えがちです。しかし生成AIは確率の高いものを推測して出すものなので、正しさよりもとりあえず出力してくれることが特性です。つまり、生成AIは従来私達がイメージしているAIとは逆の性質を持っています。指定したことをとりあえずふんわり実行してくれるものですから、条件付けを人間がしないと絶対に正確にはなりません。「とりあえず」の幅をきちんと制限して、業務にフィットするようにプロンプト化していく作業が生成系AI活用の本質だと思います。
そのため、きちんと業務を分析して、どこにChatGPTを使うとどんな効果が得られそうか考えたり、社内できちんとフィットするプロンプトを作っていったりすることが重要です。パーソル総合研究所さんの取り組みは、この点を考えていただく非常に良い例だと思います。これからもフィットするプロンプト作りのお手伝いをしていきたいですね。