ChatGPTには役割を与えないほうがいい?
――実際にChatGPTを使い始めていかがですか?
山田:プロンプトの書き方、つまり、ChatGPTへの聞き方はコツがいると感じます。最初は渥美さんにレクチャーいただいた通りに聞いても、上手く答えてもらえないこともありました。いろいろと試す中で、こちらでは気づかなかった切り口や言い方、訴求できる課題点が出てくるのでそれを組み合わせてメルマガを作っていきました。

――具体的にChatGPTへの聞き方のコツはどのようなものでしょう。
山田:設定を先にしてあげると上手くいくと感じます。「あなたはこれから何をしますよ」とChatGPTに正確に伝える。たとえば、あなたはプロのマーケターですとか、とても素晴らしい文章を書けるメルマガ担当者ですと書くと、メルマガを作るのだとChatGPTが認識してくれて上手くいくようになりました。
渥美:役割を与えるというのは割とスタンダードな方法ですね。ただ、最近は役割を与えないほうが良いのではないかと考えるようになりました。なぜなら、メルマガやマーケターなどの役割をChatGPTがどう解釈しているかわからないからです。バージョンが変わった時に同じ聞き方をして、同じ回答が得られるとは限りません。ChatGPT側で役割の認識が変わった瞬間に、使えないプロンプトになってしまう恐れがあります。
ですから、言い回しを指定したり、参考文に沿った文章を書くように指示したりと具体的な条件に落とし込むようにしています。役割を文章で条件化しておけば、今後どのような生成系AIが出てきても応用が利きます。
ChatGPTは間違った情報を言う?
中村:考え方も変わるのですね。参考になります。ちなみに、最初のプロンプトに対して渥美さんに依頼した修正の一つに、間違った情報がアウトプットされる点があります。
山田さんからのフィードバックに「ChatGPTから出てきた内容が間違っている」という指摘がありました。案内したいセミナーの内容は、テーマについての考え方や解決策を提言するような内容でした。しかし、ChatGPTが書いたメール本文では、提示していない解決策まで言及していたのです。そこで、プロンプトのパターンを何パターンか再考いただきました。
渥美:プロンプトの調整内容も企業によって変わってきます。パーソル総合研究所さんは著名なスピーカーや調査結果に基づく数字があるので、誇張した表現を抑制して権威的人名や定量情報をしっかり出すプロンプトに変化しています。
一方で、もっと煽る内容にチューニングするケースや、淡々と事実だけを伝えるといった余分な情報を削ぎ落としていくケースもあります。訴求点が会社によって違うので、最初に与えられたプロンプトを自社内でカスタマイズしてフィットさせていくことが重要だと感じます。
――プロンプトを自社に合わせていくにはどうしたらいいでしょうか?
渥美:山田さんのようにご自身でトライ&エラーを積み重ねて、それを社内で共有することです。私達のような支援会社と取り組んでいるなら、支援サイドにもフィードバックしてプロンプトを直すことも大切です。与えられたプロンプトを使えばすぐ成功するのではなく、コミュニケーションをとりながらレベルを上げていくイメージです。
とはいえ、私が目標にしているのは1回のやり取りで、要望を満たしたアウトプットを得られるプロンプトです。何度もChatGPTに話しかける必要があるということは、ChatGPTを使う人によって得られるアウトプットが異なることでもあります。なるべく条件を正確に与えて、誰がやっても同じ結果を一発で出せるようになれば業務の標準化にもつながるはずです。
業務プロセス増もメルマガ反応率3倍を維持
――山本さんも実際にChatGPTを使ってメールを作られていますが、いかがですか?
山本:私自身はセミナー企画者ではないので内容を熟知していませんし、集客となるフックの把握も難しいです。ChatGPTを使うことで、セミナーの概要や訴求ポイントを押さえた高品質なメルマガに上がってくると実感しています。これまでメルマガを作ったことがなかったのですが、独力では同じクオリティにならないと思います。

――ちなみに、ChatGPTを活用する前と現在ではメルマガ作成のプロセスはどう変化したのでしょうか?
中村:これまでは、セミナー企画者がメルマガの原稿を作成したものをそのままセットして配信していました。弊社では年間100本以上セミナーを開催していてメルマガの配信数が多いですし、時事性を重視した企画はかなりタイトなスケジュールなので、必要以上に工数がかけられない現状もあります。
それも一つのやり方だと思いますが、集客の視点からするともったいない部分があったので、今回、セミナー企画者から原稿をもらって、プロンプトを使って山本さんが編集するというプロセスも加えました。
このプロンプトを作るに当たっては、山本さんは前職で制作業務の経験があるため文書などの編集スキルを持っています。山田さんはインサイドセールスとして顧客視点を持っています。プロンプトを標準化する上で両方が大切だと考え、お二人にジョインしてもらいました。
山本:具体的な作業としては、ChatGPTにセミナーの切り口や訴求ポイントを何通りか作ってもらって、その結果を元に一つのメルマガのタイトルと本文に落とし込んでいます。自分が納得するまで実施するという理由もありますが、メール1本につき1時間ほど作業しています。
――ChatGPTを導入することで作業プロセスは増えたのですね。AIというと業務効率化のイメージもありますが、その点を含めて現在の取り組みをどのように評価されていますか?
中村:定性的な部分で言えば、今お伝えしたように編集が得意な人、メールの顧客対応が得意な人と、一人ひとりが持っているノウハウは別ですが、プロンプトにその機能を持たせることで、これまでメルマガ作成をしたことがない人でも、ChatGPTを使えば高品質なメルマガを作成できるようになったことが一つ大きな成果だと考えています。
二つ目に、工数はかかる反面で品質が高まった点です。具体的にはChatGPT利用前のクリック率はメール8本平均で1.17%だったところ、ChatGPT利用後は8本平均でクリック率が3.86%に向上しています。セッションのテーマはそれぞれ違いますが全体平均でも約3倍の反応率です。しかも、それが現在まで維持されています。
前後比較だけでなく同期間同内容比較も行っています。同じ講演テーマのメルマガをChatGPT使用・未使用で作成し配信したところ、「これまでのメールマガジン作成手順」のクリック率は平均1.44%、「ChatGPT を活用したメールマガジン作成手順」平均4.25%。同じ時期に同じ内容のメルマガを出した際にも、ChatGPTを使用したほうが約3倍の反響を得ています。ChatGPTを活用したメールはすべて良い結果でしたが、中にはChatGPTを活用したメールでのクリック率が6.19%と非常に高い数値を記録したケースもあります。
メールマーケティング業務が未経験のスタッフでもプロンプトを使うことで安定した成果を出せるようになっています。新しいお客様を作るというミッションを考えると非常に大きいと思います。