2022年夏に新設されたNTTドコモの「SLC」
MarkeZine編集部(以下、MZ):まずは、皆さんの自己紹介をお願いします。
永井(日本コカ・コーラ):私は日本コカ・コーラの自販機関連のベンディング事業部に所属し「Coke ON(※1)」などのデジタルプラットフォームを活用したマーケティング施策の企画を担当しています。
※1 日本コカ・コーラの公式アプリ。対応自販機と接続することで、d払いをはじめとする電子マネー決済機能や、スタンプを貯める機能などが利用可能だ。2023年8月時点でダウンロード回数は4,800万を記録している
酒井(NTTドコモ):私は、2022年夏に新設されたスマートライフカンパニー(以下、SLC)のカスタマーサクセス部に所属する酒井です。SLCでは、NTTドコモ(以下、ドコモ)の「dポイント」と「d払い」、そして独自のアドネットワークである「docomo Ad Network(以下、dADNW)」などを中心としたマーケティングソリューションを提供しています。
市川(NTTドコモ):私は、SLCのマーケティングイノベーション部に所属している市川です。酒井がクライアント様と直接向き合うフロントの役回りなのに対し、私はドコモが持つ会員データなどを用いて最適なマーケティング施策を提案する“プランニング部隊”という立ち位置です。
椿本(D2C R):D2C Rで営業管掌の取締役をしている椿本です。今回の日本コカ・コーラ様の施策に関しては、キャンペーン広告の運用担当を務めました。なお、D2C Rはドコモと電通、NTTアドの3社が共同出資して設立したモバイルマーケティング会社D2Cのグループ会社です。
三つのドコモメディアに広告配信が可能なdADNW
MZ:日本コカ・コーラでは2023年1~2月に、d払いエントリー層を対象にしたCoke ONキャンペーンを実施されたとうかがいました。キャンペーンの詳細と目的を教えてください。
永井(日本コカ・コーラ):本キャンペーンは、Coke ONでd払いをしたことがない人(2023年1月29日時点)を対象に、dポイントをプレゼントする企画です。100円以上のコカ・コーラ社製品をd払いで購入した対象者に150ポイントのdポイントを付与するため、飲料代が実質無料となります。このキャンペーンを通じて、より多くの方にCoke ONでもd払いが利用可能であることを知ってもらおうと考えたのです。
MZ:今回の施策ではdADNWを活用し、キャンペーン広告の配信も行ったそうですね。dADNWの特徴を教えてください。
酒井(NTTドコモ):dADNWとは、ドコモユーザーやdポイントクラブ会員など、幅広い層のユーザーに対してセグメント配信が行える運用型の広告サービスです。主に、ドコモが運営する三つのメディア「dメニュー」「メッセージS」「マイマガジン」に広告を配信することが可能です。
酒井(NTTドコモ):dADNWでは、ドコモがユーザーからの同意を得た上で取得したデモグラフィック情報やサービス利用情報、オフラインの位置情報データなどを基に、ターゲティング広告の配信が可能となります。
ドコモデータから見えるインサイトを基に、最適な配信先を提案
MZ:今回、dADNWを通じてキャンペーン広告を配信した狙いを教えてください。
永井(日本コカ・コーラ):主な狙いは、当社がまだアプローチできていない層へのリーチにありました。Coke ONでd払いが可能になった2020年9月から約2年半が経ったものの、Coke ONを使ったことがないd払いユーザー、いわゆる潜在顧客がドコモ経済圏には大勢いる──そう考えた時に、ドコモさんから丁度、「dADNWを活用してみないか?」とご提案をいただきました。
酒井(NTTドコモ):ドコモの携帯電話サービス契約数は7,200万人(※2)、dポイントクラブの会員数は約9,600万人います(※3)。dADNWを活用することで、これらの方々にリーチができ、Coke ONの新規利用者を増やすことができるのです。
※2 home5G、モジュールを除く(契約数は2023年6月時点)
※3 dアカウントを作ることで、ドコモユーザーでなくとも会員になることは可能(会員数は2023年6月時点)
MZ:今回、日本コカ・コーラに対してdADNWのどのような活用法を提案されたのでしょうか?
椿本(D2C R):まずは永井様と話し合い、Coke ONを今後使っていただけそうなユーザー分析から始めました。
市川(NTTドコモ):Coke ONを取り巻く市場概況や、保有データから見える生活者インサイトなどの調査・分析結果を土台に、仮説ベースでターゲット設計を行ったのです。そうしたマーケットインの発想での提案作成から、具体の広告配信設計まで、ドコモデータをフル活用しています。
椿本(D2C R):具体的には、仮説設計したターゲット属性をセグメントとして可視化するため、ドコモ様が保有する位置情報などを活用してユーザーの行動を浮き彫りにしました。そして、「コンビニに頻繁に行く層」や「特定のアプリカテゴリを利用する層」など、行動や嗜好に基づいた形でターゲットを割り出し、広告配信しました。
広告配信方法を二段階に分け、運用改善を行う
椿本(D2C R):さらに、このキャンペーンでは、1ヵ月の期間を二つのフェーズに分けました。前半では0次分析で炙り出したターゲットに対して広告配信を行い、その結果得られたCVRなどを基に、後半ではドコモの拡張配信AIエンジン「docomo Sense(ドコモセンス)」を使用。ターゲットの拡張とセグメントの精緻化に取り組みました。
市川(NTTドコモ):前半でCVした層としなかった層のデータを基に、しなかった層への配信を停止し、新たなターゲット層への配信を試みたのです。新たなターゲット層を見つけられたのも、dポイントクラブ会員数約9,600万という母数の大きなパネルがあったからです。docomo Senseを活用して位置情報やペルソナの類似性を基にした順位付けを行い、前半よりもCVしそうな層を優先して配信しました。
椿本(D2C R):dADNWの配信面には、ディスプレイ広告(dメニュー・マイマガジン)とメール(メッセージS)の2種類がありますが、今回はメール広告が特に効果的でした。メール特有の1to1コミュニケーションに近い情報の届け方が良かったのだと思います。
市川(NTTドコモ):メールによるアプローチの特長は、受信ボックスにメールが残る点です。実際にユーザーの行動履歴を見ると、メールはディスプレイ広告とは異なり、配信直後でなくても2、3日後にCVするケースが見られました。
他メディアよりも高いCVRをdADNWでは記録
MZ:今回のキャンペーンの成果を教えてください。
永井(日本コカ・コーラ):2023年2月のd払い経由のCoke ON新規利用者は、同年1月と比較して70%増えました。Coke ONでd払いへの対応を開始した2020年9月を除けば、この2月はd払いユーザーのCoke ON新規利用が最も増えた月となりました。
永井(日本コカ・コーラ):また、今回のキャンペーンの目的の一つに「我々では簡単にリーチができない層にCoke ONを認知してもらった上で、継続的に利用してもらうこと」がありました。その点、3月以降もd払いユーザーのCoke ON利用は継続して増えているので、この目的も達成されたといえるでしょう。
椿本(D2C R):今回、日本コカ・コーラ様を支援させていただいて、改めてドコモデータの有用性を実感しました。今回はdADNW以外にも、GoogleのGDNなど他のアドネットワークを活用して広告を運用していたのですが、dADNW経由のCVRは他メディアの4倍以上の数字を記録し、他メディアと比較して圧倒的に高かったのです。
椿本(D2C R):運用を始める前は、dADNWとGDNで広告接触層の重複を懸念していましたが、実際には「dADNWを用いないと接触できない特定のユーザー層が存在する」など、新しい発見もありました。
今回の知見を基にコンサルティングの精緻化を図る
MZ:最後に、今後の展望について聞かせてください。
永井(日本コカ・コーラ):自動販売機は今や私たちの生活の中で「当たり前の風景」となっています。しかし、ただの風景で終わらせず、Coke ONの機能を強化して“特別な場所”としての価値を再認識してもらいたいと思っています。そのためにも、大きなエコシステムを持ったドコモ様とは今後もより密に連携していきたいです。
酒井(NTTドコモ):自動販売機は、日本の誇るべき文化です。なぜなら、設置台数が多い上に、海外と比べて自動販売機が傷つけられるリスクが極めて低いからです。その文化をけん引されているのが日本コカ・コーラ様ですので、我々としてもさらなる支援をしていきたいと考えています。
市川(NTTドコモ):当社が保有するデータには、メールアドレスだけでなく、正確な「契約者情報」や「決済情報」なども含まれています(※4)。これらのデータを活用することで、耐久消費財や金融商材を扱っていらっしゃる企業様などにも、ドコモデータの有用性を示していきたいです。
※4 ユーザーから事前に利用許諾を得たデータ
椿本(D2C R):今回、ドコモグループ全体でセグメントの選定から実際の広告運用に至るまで、総力を挙げて支援させていただきました。この経験を通じて、現場での知見やデータを積み上げることができたため、今後はさらに精緻なコンサルティングが可能になると自負しています。たとえば、「データを用いた新しい切り口で、新規顧客層を開拓したい」と考えていらっしゃる企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。