敗戦の日も、何か1つ「楽しかった」記憶を持ち帰ってもらう工夫が重要
高橋:よく、スポーツビジネスの収益源は「チケット収入」「スポンサー収入」「グッズや飲料等の収入」「放映権収入」の4つだと言われます。先程、観客動員数の好調にチーム要因があるともおっしゃっていましたが、やはりチームが勝ったときと負けたときでは、ビジネスインパクトは大きく違いますか?

高橋 飛翔(たかはし・ひしょう)
1985年生まれ。東京大学法学部卒。大学在学中にナイルを創業。ナイルにて、累計2,000社以上の法人支援実績を持つデジタルマーケティング支援事業や自社メディア事業を発足。2018年より新規事業として月1万円台でマイカーが持てる「おトクにマイカー 定額カルモくん」をローンチ。自動車産業における新たな事業モデルの構築に取り組んでいる。
林:もちろん、勝つとプラスのインパクトが非常に大きいです。去年もホームで異様な強さを発揮して17連勝しましたが、やはり飲食や物販の売れ行きも良いですね。
何より「見に来て勝って、すごく盛り上がった」経験は次につながります。勝利に勝る観戦体験はないですよ。
高橋:では、負けたときに備えて、何か手を打っていることもありますか?
林:負けた日だからこそ、何かしら「楽しかった」と思ってもらえるよう、ビジネスサイドが盛り上げることに力を入れています。選手としても、いつも満員のスタジアムで、観客が一体となって盛り上がる中で試合ができたほうが幸せですから、チームとも積極的にコミュニケーションをとり、チームにとっても、ビジネスサイドにとっても良い効果が期待できる「見どころ」を随所にちりばめるようにしています。
BtoCの落ち込みをBtoBがカバーし、黒字をキープ
高橋:収益源の話でいうと、チケット収入やグッズ・飲食収入には観客動員数が大きく関わりますよね。コロナ禍で動員制限がかかっていた時期も黒字をキープしていたそうですが、なぜそれができたのでしょう?
林:理由は大きく2つあります。
1つは、私たちのビジネスにはBtoBとBtoCの両面があり、コロナ禍で痛んだのは主にBtoCだったことです。無観客が続いてチケット販売枚数や飲食・物販の売上は著しく落ち込みましたが、当社のコロナ禍の取り組みに共感してくださるスポンサーが多く、BtoB領域は守られました。
2つ目は、予算執行の仕方です。外には見えにくい部分ですが、コロナ禍がいつまで続くかわからないことを前提に、予算を管理しました。感染対策の徹底と検査実施で満員まで観客を入れた場合や、感染状況によって半分までしか動員できなかった場合など、常に複数のパターンを想定することで経営へのインパクトを最小限に抑えました。
高橋:収益源が複数存在するのはマーケターとして大きな安心材料ですね。収益源が1つしかないと、その収益源が倒れた場合、何も施策を打てなくなってしまいます。
当社のマーケティング支援事業でも、元々問い合わせの大半はWebサイトからの問い合わせでしたが、2021年から別チャネルを開拓し、今では複数のチャネルでバランス良く問い合わせを獲得しています。複数の武器を用意しておくことは、経営でもマーケティングでも長期的な成長を続けるための要諦の1つですね。
しかし、武器を用意したとはいえ、2019年の球団最多228万人から2020年の観客動員数は約46万人。2021年は約72.6万人まで激減。これはやはり厳しいものだったんじゃないですか?
林:正直に言ってかなり厳しかったです。冒頭でお話ししたようなイベントと合わせて、動員数の上限緩和に向けて各種感染対策の効果を評価する技術実証を実施するなど、できることを粛々とやっていました。
