31歳、現役引退で目標を失った
菅原:今回は学生アスリートのスポーツキャリアを形成するNPO法人Shape the Dream(StD)の代表理事を務める白木栄次さんをゲストに迎えました。マーケティング媒体でNPO法人を取り上げる異色の回です。学生アスリートのキャリア支援は社会的に意味がある一方で、サービスの受け手である学生にとっては、ある種シビアな話でもあると思います。ここをいかにバランスして活動を広げられているか、うかがいたいと思います。
まずはどのような活動をされているか、ご紹介いただけますか。
白木:高校や大学で部活動を一生懸命頑張っている学生さんたちを対象に、将来のあり方や、スポーツで培った力をどう社会や組織へ転用できるのかを考えるプログラムを提供しています。
Shape the Dreamを立ち上げたきっかけは、元アメフト選手だった私自身の経験によるところが大きいです。私はスポーツ推薦で大学に入り4年間アメフトに没頭。就職後も実業団チームで選手として活動を続けました。
大きな転機が訪れたのは31歳、現役を引退したときです。私自身は競技をしながら会社員として仕事をしていたので、ビジネスマンとしてのスキルや知識が身についていると思っていました。しかし実際は「白木くんはアメフトを頑張っているから」と職場の方々がフォローしてくれていたからこそ、アメフトと仕事の両立ができていたんです。引退して「アメフトの白木くん」から「ただの白木くん」になったとき、スキルも目標も何もないと気づきました。
これはまずいと、まず学び直しのためにビジネススクールに入学。在学中に自身の原体験をもとに学生アスリートのキャリア形成を支援する今のShape the Dreamの活動を発案しました。
学生アスリートの約3分の1は、将来が不安
菅原:学生アスリートのキャリア支援というと、悩ましいポイントがあるのではないかと思います。ひとつはプロを目指している学生に、ある種の現実を突きつけ「諦めなさい」と言っていると誤解、曲解されてしまうのではないかということ。もうひとつは、せっかく選手が一途に頑張っているところに余計な情報を入れないでほしいと思う指導者もいるのではないか、と。そのあたりはどのように乗り越えてきたのでしょうか?
白木:大前提として「諦める」や「プロになれない可能性が高い」といった表現は一切使いません。その上で、キャリアについて考えることは今頑張っているチーム活動やスポーツに活かすことができると、スポーツに転換できる汎用的な考え方を学生さんたちと一緒に形造っています。
いきなりキャリアや将来について考えようとは言いません。スポーツに打ち込んでいる大学1、2年生が自分事として考えるのは難しいでしょうし、指導者にしてみれば「そんな時間があるなら練習してもらいたい」と思ってしまうかもしれません。
一方で、将来のキャリアに不安を抱えている学生アスリートが多いことも事実です。アンケートで「あなたから競技をとったら何が残りますか」と質問すると、約3分の1の人は「何も残らないと思う」と回答するんです。アスリートというと、自信を持って頑張っている人といったイメージを持つかもしれませんが、取り組んでいるスポーツ以外に関しては、実はそんなことはないのです。