年齢による価値観や嗜好の違いがなくなる時代
今回紹介する書籍は『消齢化社会 年齢による違いが消えていく! 生き方、社会、ビジネスの未来予測』。執筆したのは博報堂生活総合研究所です。
同研究所は1981年に博報堂が設立し、1992年からは2年に一度、20~69歳の男女を対象にした「生活定点」調査を実施しています。
本書の第1章では消齢化現象の概要を、次章では消齢化の背景について解説。第3章ではデータを基に行った未来分析の結果と、消齢化により市場環境などがどのように変化するか、仮説を述べています。
消齢化とは「年齢による価値観や嗜好の違いが縮小している現象」を指す言葉で、同研究所が過去30年分の生活定点調査の結果を見ていた際、ある傾向を見つけたことに端を発します。質問項目の一つ「将来に備えるよりも、現在をエンジョイするタイプである」への回答を年代別で見ると、1992年時点では20代で49.7%、60代では25.5%で、その差は24.2ポイントだったそうです。しかしながら2022年に同じ質問を投げかけたところ、20代の回答割合は45.4%で、60代は39.9%。両者の差は5.5 ポイントと、30年間で年代による差が縮まってきているのでした。
このように、各年代の回答割合の差が縮小している質問項目は、366項目(30年前と比較可能な項目数)のうち、70項目に及んだとのこと。さらに、NHK放送文化研究所の調査結果からも同様の傾向が確認できたことから「現代の大きな潮流として消齢化が起きている」そう結論づけたわけです。
「年相応」「適齢期」という言葉が通用しない
博報堂生活総合研究所は、消齢化現象の要因として次の四つを指摘しています。
1.元気なシニアが増えたこと
2.年齢を気にしない人が増えたこと
3.インターネットが普及したこと
4.日本経済の低成長が長く続いていること
特に「2.年齢を気にしない人が増えたこと」について、同研究所は以下の仮説を立てています。
物やサービスへのこだわり、流行への関心、お酒をたしなむかどうか。これらに見られるのは、いわば生活者の「嗜好や興味、関心」について、上の世代と下の年代とが互いに擦り寄るような形で違いが小さくなっているということなのではないか、と私たちは考えました。(p.67)
この仮説に基づき、同研究所は調査に加えて街頭インタビューも実施。得られた声の一部を紹介します。
声1:「お母さんの服は、結構借ります。私のお母さんは、あまり高い服を長く着るタイプではなくて。安い服をワンシーズンで着る感じなので、私が着たいものとそんなに変わらないかなって感じです」(20代女性・原宿)
声2:「アイドルは、私が娘にハマらせてしまった感じです。小学校の時連れて歩いて。今は娘がハマっています」(60代女性・巣鴨)
このように、人々は全年代を通じて「年相応」や「適齢期」という固定観念に囚われず、自身の欲望を追求していることが、街頭インタビューの結果からわかりました。
同研究所はさらに、過去のデータとコウホート分析(※)の結果を基に10年先の未来を予測し「消齢化現象は今後も進行し続ける」との見解に至っています。では、続く消齢化現象に対して、マーケターはどのような対策を講ずるべきでしょうか。
※同一の調査項目について得られる継続調査データから、変化の要因を「時代効果」「年齢効果」「世代効果」に分離することで、変化の構造を明らかにする分析手法
消齢化時代に有効なタテ串のマーケティング
博報堂生活総合研究所は「デモグラ情報がマーケティングにおいて意味をなさなくなる」と述べています。消齢化前は年代別のライフステージや好みの違いが明確であり、商品開発は「ヨコ串」の発想、つまり各年代層に適した商品を設計する方法が取られてきました。
その結果、企業側は「この年代には商品A、その上の年代には商品B、さらに上には商品Cを」と段階的に商品を投下し、消費者側も自身の年齢が上がるにつれて、商品AからB、Cと、自身の年に相応の商品を選んでいく。そんな「ヨコ串」発想のマーケティングが有効だったといいます。
しかし、この先消齢化によって各年代の好みや関心の違いが小さくなるのを前提とした時に、同研究所は「これからは『この製品は若者向け』などとデモグラ属性を絶対視するのではなく、思い切って複数の年代を一気通貫して考える『タテ串』発想の有効性が増すのではないか」と指摘します。
本稿では第3章までの内容を要約して紹介しました。第4章からは、同総研が予見する新サービスの可能性や、消齢化による悪い影響などについても取り上げています。「デモグラとは異なる発想でのマーケティングに挑戦したい」と考えているマーケターの方は、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか?
本記事は集英社インターナショナルからの献本に基づいて記事作成しております