分解思考は「曖昧な成果」を「明確な事業貢献」に変える
――今回のMarkeZineプレミアムセミナーでは、菅原さんに分解思考についてレクチャーいただきます。著書『小さく分けて考える 「悩む時間」と「無駄な頑張り」を80%減らす分解思考』でも詳しく解説がされていますが、分解思考とはどのようなものか、改めてうかがえますか?
どの企業にも、売上を増やしたい、事業を伸ばしたいといった目標があります。一方で、どうすれば達成できるのか解像度が足りないケースも多いです。
しかし、たとえば売上を伸ばしたいなら、いくらの商品を何個買ってもらうのか、商品単価と購入人数のバランス、何人に何回買ってもらうのか……と複数の要素に分解できます。すると、漠然とした「売上を上げたい」という課題に対して、新規のお客さんが必要だとか、既存のお客さんのリピートが悪いからリピート率を上げる施策をしましょう、とより明確な行動がとれるようになります。
このように、物事を分解して具体的な数値に落とし込んで、行動目標を設定する。それが分解思考です。
――分解思考はマーケターにとってどのようなメリットがあるのでしょうか?
マーケティングは成果が曖昧で、事業にどれだけ貢献できているかを測りづらいものです。「テレビCMを打って何GRP出したから認知が取れたはずです」と言っても、それがどう事業貢献につながっているか、事業部や経営層には伝わりにくい。
CEOやCMOなどCxOたちは費用対効果や利益といった経営ベースで会話します。マーケティングが与えるインパクトや存在意義を伝えるためには、マーケティング用語ではなく経営用語で効果を伝える必要があります。つまり、数値化された売上・利益の会話が求められるわけです。
分解思考によって目標を具体的な数字にすることで、事業貢献につながる成果を出せるようになります。大きな目標を立て、事業に貢献することでマーケティング部門の価値が社内に認められますし、マーケターとしても仕事がしやすくなっていきます。
――今回のセミナーでは分解思考をリーダーが身につけ、チームでも展開していくことを目指しますが、分解思考ができるチームとできないチームの違いは何でしょうか?
分解思考ができないと目標や効果が曖昧になり、「何となく」で物事がすべて進んでしまいます。何となく良さそうなプランをやってみて、何となく実行してみたら、何となく結果が出る。そのため、何故上手くいっているかがわからない状況になります。
正解がわからないため、結局おもしろい施策を選んだり、声が大きい人の意見が通ってしまったりもします。最終的には、効果が出るのかわからない施策にチームの時間を取られることになります。
さらに、何となくで進めるので、レビューもできなくなるのです。数値の変動はわかるけど、次に何をすればいいのかわからない状態ですね。これでは施策による学びも得られません。
反対に分解思考を活用するチームは、何をどうすれば事業貢献ができるのかをKPIベースで具体的に説明できます。どんなクリエイティブをどんなCMで出せばいいか、どんなデジタル施策をすればいいのか、それは何故か。きちんと説明・実行して成果を出せるのです。結果的に、社内でもマーケティングに対して信頼と期待が寄せられ、立場も向上していきます。
「ずっと同じ課題の話をしてしまう」のは何故?
――セミナーでは菅原さんに具体的に分解してほしいお悩みを募集しているのですが、「課題について解決策を話し合っても、時間が経つとまた同じ課題が出てきてしまう」という相談をいただいています。まさに、分解思考が役に立ちそうです。
そうですね。これはよくあるケースだと思います。私たちも、健康診断の数値が少し悪くても忘れてしまいすよね。けれど、その数値の悪化がどれぐらい深刻なのかがわかると行動が変わります。
マーケティングが事業に貢献するために、何を増やすべきか数値で明確に定まっていれば、きちんと対策を打てるようになります。なぜなら、数値の悪化が事業の悪化に直結するとわかるからです。目標が曖昧だと結局見過ごされたり、後回しになったりして、気づいたら同じ話をしてしまうわけです。
事業部やブランドマネージャーが抱えている課題を見定めて、大きな事業課題を1年かけて改善するように、様々なキャンペーンをきちんと走らせていく。それが、マーケターもしくはマーケティング施策の役割だと認識することが大切だと思います。