現在に安住せず新たなチャレンジを
西村:もう一つ、過去の経験の話をすると、担当していた地方のお得意先様の資金繰りが悪くなり、私が直接販売店さんを訪問して弊社の売掛金を回収しに奔走したことがあるんです。いわゆる債権回収です。
当然全額すぐに回収できないので、雪の降る年末にも交渉に回ったのですけど、「忙しいから帰ってくれ」と言われたり、「家族が入院してお金がない」と言われたり、中には厳しい対応を迫られたりするケースもありました。
磯山:壮絶な経験ですね。
西村:その倒産したお得意先様は地元の名士さんだったんですよ。そういう経験を目の当たりにすると改めて「ずっと安泰な会社なんてないんだな」と実感しました。アサヒビールはお陰様で大手と言われますが、決してそこに安住してはいけないと強く思います。
短期目線で毎年前年と微差の比較をすると、10年単位での危機感を感じにくい、所謂「ゆでガエルの理論」に陥りがちです。しかしいつまでも同じ繰り返しは続きません。新たな事業へのチャレンジは意欲を持つことより、実現させることの方が困難の連続で大変なことです。いつか必ず「あの時THE DRAFTERSをやってくれてよかった」と思ってもらえる日がくるのではないかと思います。

磯山:今の地位に安住してはいけないと思うからこそ、新しいことにチャレンジするパッションが生まれるわけですね。
西村:やはり、現状を否定して新たなアプローチをし続けないと、誰もチャレンジしなくなってしまいます。最初に道を作るのは確かにすごく大変ですが、それを後輩に先送りしてはいけないと思うんですよ。むしろ消費者との良好な関係を先に送らないといけない。
「THE DRAFTERS」がこのまま順調に続いていけるのが一番ですが、仮にそうならなかったとしても、我々の背中を見た後輩達が新しい価値や事業を作ってくれるでしょう。それがシニアとしてやるべきことなのだと思っています。
「ビール=楽しいお酒」を醸成するサービスに
磯山:最後に、THE DRAFTERSはユーザーにとってどんなブランドでありたいかを教えていただけますか。
西村:「会員さんに乾杯!をもっとワクワクしていただけるサービス」になりたいと思っています。ユーザーアンケートでも「楽しさ指数」を取っているんですよ。お客様が本当に笑顔になっているかどうかを重要視しています。
ビールって「楽しいお酒」なんです。ワインは「愛を語るお酒」、ウイスキーは「自分と語らうお酒」と表現されることがありますが、ビールは人と人との間に垣根を作らず、みんなで肩を並べて笑って飲むお酒なんです。
磯山:弊社もミッションやビジョンに「ワクワク」というワードを入れています。冒頭で「一緒に飲む人やシチュエーションによって美味しさに気付く」というお話もありましたが、自分だけではなく仲間や場所などいろいろな条件が揃った時に最高のワクワクが生まれるのではないかと思います。
西村:それを直接届けるためのD2Cなんですよね。「なんかD2Cってみんなやってるからやろう」ではなく、「トップメーカーとしてこうやってお客様の人生を豊かに、そして幸せにするためのサポートをしよう」という思いのもとに、THE DRAFTERSは生まれたんです。
取材を終えて
ビールが大好きな磯山です。今回は、日本のトップブランドであるアサヒビールさんのTHE DRAFTERSについて西村様にお話を伺うことができました。おいしい生ビールを飲みたいというユーザーのために事業を推進してきた熱量と「ビールに、自由と冒険を。」をキャッチコピーに常に挑戦しプロダクトからサービスへ転換していくチャレンジが印象的でした。
ユーザーと直接コミュニケーションをとりワクワクする場を作り出し、楽しいお酒を実現するアサヒビールさん、そしてTHE DRAFTERSの今後の展開が楽しみです。