画面遷移はデジタル上のカスタマージャーニー
安田氏はアパレル企業の取り組みを引き合いに出し、行動分析からUIを改善した事例を紹介する。アプリの商品詳細画面に「閲覧履歴ボタン」を設置したところ、カートの投入率が122%、コンバージョン率が156%、購入者数が114%に改善したという。
「私が皆さんにお伝えしたいのは『閲覧履歴ボタンを設置しましょう』という単純なメッセージではありません。リテンションやコンバージョンに効く打ち手は、お客様やサービスによって異なるからです」(安田氏)
では我々はこの事例を通じて何を学ぶべきなのか。それは「閲覧履歴ボタンの設置」というアクションを導いたロイヤルカスタマーの分析方法だ。分析にあたっては、対象の設定が重要だという。この事例では「購入回数が2回以上のユーザー」をロイヤルカスタマーと定義。定義にあてはまるユーザーの行動をAmplitudeで分析したそうだ。
行動分析の結果、購入回数が2回以上のユーザーは閲覧履歴を平均9.1回見ていた。全体平均が1.4回であることを鑑みると、非常に多いと言える。この結果から「より多くのユーザーに閲覧履歴を見てもらうことができれば、ほかのユーザーの購入回数を増やせるのではないか」という仮説が成り立つ。
さらにこの事例では、閲覧履歴までの遷移も可視化したそうだ。「画面遷移はデジタル上のカスタマージャーニーのようなもの」と安田氏。分析の結果、閲覧履歴を訪れる前に商品詳細画面を見ているユーザーが48%いるとわかった。「商品詳細画面から閲覧履歴に遷移しやすいUIを設計すれば、購入回数が増えるのではないか」という新たな仮説がここで成り立つ。これらの行動分析と仮説立案が、前述の高い成果を導いたわけだ。
定量×定性の組み合わせがユーザーの解像度を高める
安田氏はビヘイビアベースアプローチの注意点を次のように語る。
「定量データの分析だけでは『なぜその行動をとったのか』がわからない場合もあります。先ほどご紹介した事例でも、行動の分析によって『閲覧履歴を見ている人が多い』『商品詳細画面から閲覧履歴に遷移している人が多い』という傾向はつかめるものの『なぜ閲覧履歴を見るとコンバージョンが上がるのか』『なぜ商品詳細画面から閲覧履歴に遷移するのか』という理由までは掴みきれません。その理由を探るためには定性分析が非常に有効です」(安田氏)
定量分析で焦点を絞り、コンバージョンに効く行動をとる理由について定性分析で深掘りしていく──定量データと定性データの組み合わせによって、ユーザーの解像度を高めることができると安田氏は強調する。
セッションの最後に、視聴者から「よく買う人がその行動をとっているからと言って、同じ行動をとるほかのユーザーが必ずしもよく買うようになるかはわからないのでは?」という質問が挙がる。安田氏は「行動に相関があったとしても、因果があるわけではない」とした上で、次のように回答し、セッションを締めくくった。
「インタビューなどを通じてユーザーの声に直接耳を傾ければ、そこに因果関係の有無を追究することはできると思います。やはりここでも、定量×定性の組み合わせが有効なのです」(安田氏)