インフルエンサーに熱量をもって商品を紹介してもらう
MarkeZine編集部(以下、MZ):これまでの簡単なご経歴と現在の業務について教えてください。
平尾:I-neのブランドマネジメント部に所属し、ブランドプロモーション課の課長を務めています。これまでボタニカルライフスタイルブランド「BOTANIST」やナイトケアビューティーブランド「YOLU」の発売時にプロモーションを担当し、現在はヘアケアや美容家電ブランドのプロモーションに横断して取り組んでいます。
木村: AnyMindのインフルエンサーマーケティング事業部で営業を担当しています。現在、美容クライアントを中心に担当しており、加えてBeauty Hackという美容特化のチームにも所属しています。
MZ:I-neではインフルエンサーマーケティングにも積極的に注力されている印象です。この手法の価値や役割をどうお考えでしょうか。
平尾:当社では、大手企業よりも限られた広告予算の中で、お客様からいかに効率的に商品を認知してもらい、購入につなげるかを大切にしています。
テレビCM出稿の有無といった施策規模の違いから認知のベースが大手企業より少ない分、プロモーションにおいて特に重要視するのは認知から購入に至るまでの転換率です。購入転換率の向上を考える中でも、広告配信とインフルエンサー施策のバランスは意識しているポイントです。広告配信の役割は、自社発信で世界観や商品特徴を伝えることによる認知向上で、インフルエンサーを起用する施策の役割は、ユーザーからのブランドに対する共感や納得感を得ることで、話題の着火を促して購買につなげてもらうことだと考えています。
特にインフルエンサーの方々に実際に商品を使用いただいた上で自身の言葉で熱量を持って紹介していただけるようにすることが当社のプロモーションでは非常に重要です。
I-neのSNSプロモーションの考え方 「イノベーター理論」に基づいた三つの層
MZ:インフルエンサーを起用するプロモーションは「話題の着火」が目的ということでしたが、どのような層にアプローチしているのでしょうか?
平尾:当社ではイノベーター理論を基に、ターゲットをタイプごとに整理しています。話題の着火点を作る「美容開拓層」と、その話題に乗っかりトレンドを作る「美容トレンド層」、そのトレンドから良さそうなものを探して購買する「美容マス層」です。インフルエンサーマーケティングでは、各層に合わせた施策を行うことを重要視しています。
木村:I-ne様は、プロモーションの目的や対象を非常に明確化しています。また新たなブランドや、プロモーションが始まる前のブランドストーリーについてもしっかりと芯が通っているのも特徴的です。
平尾:また各プラットフォームについても、それぞれ特性が大きく違うため、使用目的も大きく異なると感じています。たとえばXは、興味関心軸でつながっている人同士での拡散性があるという特徴があり、特に効果的なのは美容開拓層へのアプローチです。一方、Instagramは、リールで流行を作る特徴と、フィードでUGCが蓄積されることによる商品のデータベースといった二つの特徴があり、美容マス層へのアプローチに適していると感じています。
定量分析を基に導き出した発見タブ上位表示の指標
MZ:より具体的なお話として、貴社が展開する「Aquall」のプロモーション戦略について伺いたいです。ブランドの特徴から教えていただけますか?
平尾:Aquallは髪のダメージケア需要の高まりを背景に2023年4月に誕生したブランドです。明るい髪色を楽しむ一方で、ダメージが気になるという方が増えてきたことに加えて、コロナ禍によって心のつながりや潤いが不足していたことから、乾きやすい髪と心の潤いを提供することを目指し開発しました。
MZ:AquallのプロモーションではSNSをどう使い分けていますか?
平尾:今回のプロモーションではZ世代の方をメインターゲットとして想定しました。Aquallの発売時期の施策においては、Xでは美容開拓層からの鮮度の高い情報発信やバズコンテンツの創出を目的とし、一方Instagramではトレンドの商品として認知してもらうために発見タブの上位表示を狙いました。こうしたプラットフォームごとのアプローチやアルゴリズムの分析、効果検証についてはAnyMind様にご相談しながら行っています。
発見タブの上位表示には特に力を入れていたのですが、アルゴリズム分析のための情報が少なく、正確に狙っていくのが厳しい状況でした。そのため、AnyMind様が提供するインフルエンサーマーケティングプラットフォームの「AnyTag」を活用して分析を行いました。
アルゴリズムが常に変化する中で、情報を自分達でタイムリーにキャッチして施策に活かしていくことは非常に難しくなっています。AnyTagを活用することで、AnyMind様から新しい情報をいただき、常に新たなチャレンジができる状態を作り、信頼できるレポートを用いてPDCAサイクルを回しながらナレッジを貯めたいと考えました。
木村:AnyTagでは、過去の実績などに基づいたインフルエンサーの選定やキャンペーン実施時における投稿のリアルタイムレポートなどのサービスを提供しています。インフルエンサーマーケティングの効果測定を定量的に行い、その分析を選定やレポーティングに活かすことで、指標のご相談から効率的かつ継続的な施策運用まで支援しているのが特徴です。施策の効果検証は社内の複数ブランドを横断して行うことも可能です。このように分析のリソースが削減できるため、クライアントのご担当者様は戦略や具体的な施策の検討に時間を割くことができます。
今回のAquallの支援ではこのAnyTagを活用し、Instagramの発見タブ表示のアルゴリズム分析や重要指標の設定、最適なインフルエンサーの選定をご提案しました。実際のアルゴリズム分析では、発見タブの上位に表示されている投稿のインサイトを調査し、他のブランドの戦略結果を考慮した上で主要指標を決めました。主にInstagram上のシャンプーや、トリートメントのカテゴリーにおいて上位表示されている100以上の投稿を基に分析を行い、共通点を探しました。その結果、発見タブに表示するための重要指標として「imp率」と「保存率」を設定しました。
媒体の特性に合わせて投稿内容を大幅に変更
MZ:InstagramとXでの施策で、起用したインフルエンサーや具体的な投稿内容についてご説明いただければと思います。
平尾:先述の通り、今回は重要指標の一つとして投稿の保存率を掲げていました。そこで、ユーザーの皆様に保存してもらうために我々が伝えたい商品の価値と、ユーザーがヘアケアに求めていることのすり合わせを細かくAnyMind様と行いました。
ブランド視点だけだと当たり障りのない言葉を作ってしまいがちだと思っていますし、引きのあるワード作りはAnyMind様やインフルエンサーを頼りにしています。
また、インフルエンサー起用の条件と投稿内容はプラットフォームごとの目的に沿って変えています。Xでは、先述の通り美容開拓層による共感からの拡散を目的としました。ワード開発が得意なインフルエンサーを起用し、髪の内側から潤い多角的にダメージケアができるシャンプーである点を魅力に感じてもらうために言葉での訴求を行いました。
一方、Instagramでは、商品の機能性と流行りの商品であることのZ世代へのアピールを狙いました。文字入れ投稿や文字で静止画を描くのが得意な方やZ世代から支持を得るライフスタイル系で顔出し投稿をされている方を起用し、商品の特徴や使用感に関する投稿を行っていただきました。
熱意を伝えた結果、エンゲージメント率は14%超え
平尾:加えて、オリエンテーションには力を入れました。業界的には1回に5人程度を集めて数回実施したり、そもそも行わなかったりというケースもあるそうですが、今回当社ではインフルエンサーの一人ひとりに対して2週間で計20回実施しました。ブランドの背景や機能性について当社が持っている想いをインフルエンサーに直接お伝えすることでブランドを詳しく理解いただき、効果の最大化も狙いました。
木村:インフルエンサーマーケティングにおいて、商品説明の資料を送付するのみと直接ブランド担当者から説明を聞くのとでは商品に対しての理解度が大きく変わります。インフルエンサーがブランドに対して前向きな感情を持ち、継続的な投稿やオーガニック投稿などにもつながると考えたため当社からオリエンテーションの実施を提案しました。
MZ:インフルエンサーを起用した施策の効果について教えてください。
平尾:2023年6月時点で、今回の施策によるInstagramへの投稿が、6つのハッシュタグで発見タブの上位に表示されました。当社では投稿に付与するハッシュタグを2種に分けて見ているのですが、「#Aquall」や「#アクオル」といった商品情報の蓄積を促すハッシュタグでは12投稿が上位表示に。「#ダメージケアシャンプー」「#うるおいシャンプー」など新たなユーザーの流入を促すハッシュタグでは14投稿を上位表示させることに成功しました。Instagramで起用したライフスタイル系インフルエンサーによる投稿では、エンゲージメント率は14%超でした。また、インフルエンサーの方々による投稿である中、商品に関連するコメントの比率はコメント全体の56%以上となりました。
新商品発売のタイミングは認知度も低く興味を持たれにくい中で、プロモーションターゲットであるZ世代を中心に認知の拡大ができたと感じています。
MZ:成功要因としてはどのような点が考えられるでしょうか?
木村:オリエンテーションで熱量が高まったのは大きな要因の一つとして考えられると思います
木村:今回、当社のグループ内の事務所であるGROVEおよびsejuに所属するインフルエンサー・タレントを起用しました。オリエンテーションを通して熱意を伝えたことで、インフルエンサーやタレントたちに愛用してもらえるようになり、その愛用感がユーザーにも伝わったと感じています。データを活用することは重要ですが、それに加えていかに熱量を伝えるかもインフルエンサーマーケティングを成功させる上で重要な点になると感じます。
インフルエンサーは「広告配信枠」ではなく、ユーザーの声を代弁する「代表者」
MZ:今後の展望についてお聞かせください。
平尾:商品の認知にとどまらず、見た瞬間に買いたいという購入意欲を高めるには、第三者からの発信が必須だと考えています。インフルエンサー施策の効果を最大化していくためには、インフルエンサーを広告配信の枠ではなく、ユーザーの声を代弁してくれる代表者として捉えることが大切です。ブランド価値や商品の機能価値をより正確に届けるためにも、関心を持ってもらえる言葉選びやコミュニケーション開発をインフルエンサーと一緒に取り組んでいきたいです。
そのために、AnyMind様が有する美容業界や他業種のデータを分析いただき、当社のブランドと相性が良いインフルエンサーや、次に流行りそうな方を一緒に見つけたいと考えています。
木村:トレンドも媒体のアルゴリズムも常に変化しています。その変化の速さからノウハウが蓄積できないという企業も少なくありません。だからこそ、最新情報や最適解を常に共有しながら、購買につなげるインフルエンサーマーケティングの勝ちパターンを一緒に見つけていきたいと思っています。
さらに、インフルエンサーとのコネクションを強化し、オリエンや体験会に前向きに参加してくださる方を増やしたいとも考えています。I-ne様との相性が良いインフルエンサーをご提案することで、売上最大化のサポートを行っていきたいです。