データの取り直しを回避するための考え方
データの取り直しを回避するためには、戦略的なデータ基盤が必要だ。そもそも、データの取り直しが発生する背景には、データを取得するときに、データの具体的な使い道が決められていない状況がある。とりあえず取っておこう、使い方は後で考えようと取得・収集されたデータが、世の中にはたくさんあるのだ。テクノロジーが発達し、データの取得やダッシュボード作成が簡単にできるようになった弊害ともいえる。
使い道(ユースケース)を決めずに取得・蓄積したデータは、ダッシュボードで可視化したところで使い道がない。白井氏はユースケースなきデータ基盤を家の建築にたとえ、「できあがる家を想定せず、とりあえず近くにある材料を集めて、そこから作れそうなパーツを作ってみた状態」だと説明する。
データ基盤はすぐに改修できるが、データを溜めるには時間がかかる。データ活用はとりあえずあるものから始めるのではなく、最初にきちんと設計をする必要があるのだ。
「デジタルマーケティングでは、素早く打ち手を変更していくことが成果につながりやすいと思います。その感覚から比較すると、データ基盤は重いものだととらえていただいたほうが良いでしょう」(白井氏)
データ活用の順番は決まっている。まず、データのユースケースと成果を定義し、実現に必要なデータを定義した上でデータ基盤の設計・構築を行う。このフェーズがデータの取得にあたる。そして、ダッシュボード構築など得たデータの利活用を通して成果を創出していく。手元にあるデータは何か?取れるデータは何か?から逆算しないことが重要だ。
では、データのユースケースと成果の定義とは具体的に何か。白井氏は「データのユーザーと協議をして、データを業務上の意思決定にどう組み込むかを検討して決定すること」だという。データのユーザーとは、実際にそのデータを見て自分の業務に反映する人のことで、データアナリスト、マーケター、営業、経営者がこれにあたる。
ユースケースと成果が決まったら、データのユーザーが意思決定するために必要な情報を定義していく。なお、情報とデータの区別については、営業がすぐ受注につながりそうな顧客を知りたい場合を例にすると、その顧客から優先的に訪問するという意思決定をするもの=「情報」、すぐ受注してくれる顧客をあらわす指標や集計項目=「データ」だと考えるとわかりやすい。
必要なデータを定義したら、ユースケースに対して適切なデータの取得・加工・蓄積の設計を行い、データ基盤を構築する。その基盤ができれば、データからダッシュボードや予測モデル、レポートなどのアウトプットを生成する。最後に、そのアウトプットをもとに意思決定を行って実行に移し、成果を得る。
多数のユースケースを集め、それらに適合するデータ基盤を作る
「ユースケースの定義とは、最後の成果創出が具体的にどう行われるのかをあらかじめ定義することです。つまり、誰がどんな情報をもとにどんな意思決定を行い、どんな成果を得るかのパターンの洗い出しができれば、ユースケースの定義ができるということになります」と白井氏。
つまり、ユースケースを作るには「誰が」「どんな情報をもとに」「どんな意思決定を行い」「どんな成果を得るか」を埋めればいい。これをたくさん集めて、それらに適合するデータ基盤を作ることができれば、データの取り直しを回避できる。
たとえば次のユースケースを考えてみよう。
誰が | どんな情報をもとに | どんな意思決定を行い | どんな成果を得るか |
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経営が | 事業ごとの成長性をもとに | 今年度の投資事業・撤退事業を決め | 利益を増加させる |
この場合、まず事業ごとの成長性を評価・予測できる実績データを蓄積する必要がある。意思決定は年度で行われるため、意思決定時にデータが更新されていれば良く、頻繁にバッチを回す必要はない。
また次の場合はどうだろうか。
誰が | どんな情報をもとに | どんな意思決定を行い | どんな成果を得るか |
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マーケターが | ロイヤルユーザーと類似の特徴を持つ新規ユーザーのリストに対し | 優先的に施策を打ち | ロイヤルユーザー化させ、売上を増加させる |
まずロイヤルユーザーを指標によって定義し、新規ユーザーを同一指標で評価するためのデータを蓄積する必要がある。また、ロイヤルティのスコアリングなど、新規ユーザーがロイヤルユーザー化するまでの進捗を追えるデータが必要だ。スコアの進捗を見ながら、マーケターは自分たちの施策を調整していくことができるデータのアウトプットを作るための基盤を作ることになる。