AIを意識した契約が交わせているか?
――積極的にAIを活用していきたい場合、気をつけるべきポイントはあるのでしょうか?
まずは生成AIサービス提供者との契約ですね。使用するAIサービスについて、入力した情報は機械学習されず、相手が目的外で使うことがないことや機密を守るといった内容の契約が結べているか。ここが出発点です。APIを使用する際などに、APIに関する利用規約やデータ処理契約(DPA)を結ぶことで対応できているか要確認です。その上で、仮に契約上の手当はできているとしても、本当に重要なデータは入れないようにするといった対応は別途要検討でしょう。

著作権については、AIが作ったものには著作権が発生しないことがはっきりしています。困るのは、自分で作ったかのように見せかけて、実はAIを使っていたから権利がありませんというケースです。AIの使用を事前に明示して、AIによる生成だから権利がないという前提を両社で話し合い、問題なければ契約して納入する。権利がないと困るならば、AIは使わない。その代わりコストは掛かりますよ、などと話していく必要があります。
また、生成AIが登場する前から、委託先に制作を依頼して、それをそのまま市場に出したら著作権侵害だと指摘されて問題になっていたケースはあったかと思います。それと同様に、AIが生成したものだから大丈夫と信頼するのではなく、チェックをする体制は必要でしょう。
「実はAIが作りました」からトラブルが発生する可能性
――自社でAIを活用する場合でなくても、クライアントとしてクリエイティブ制作を依頼する場合などもAIに考慮した契約書を用意する必要がありますね。
そうですね。旧来の契約書でも一応ワークするとは思います。たとえば、納品物の権利譲渡について記載があるはずですから、「AIで作ったら権利は発生しないかもしれないので、権利を移したことにならず、契約違反にあたるのではないか?」といった会話が生まれ、AIの使用や権利についての合意形成ができます。
しかし、それは受発注の双方がAIと著作権への認識や知識を持っていなければ成立しません。「AI使うけどいいよね?」「別にいいんじゃないですか?」といった感覚で進めてしまって、後からトラブルにつながる可能性もある。そこは避けたいですよね。
――実際そういうトラブルは起きていますか?
まだ大きなトラブルは顕在化していないとは言えます。多分、現在は意識せずに実務が回っている段階です。しかし、今後、トラブルは増えると思われます。
AIを用いて安く早く生成できれば良くて、権利を帰属させなくても困らない案件ならば、トラブルは起きにくいと思います。怖いのは、会社のキーとなるデザインやキャラクターなど絶対に権利を保持していないと困るものにAIを使った場合ですね。
たとえば、キャラクターか何かが人気になって世に広がった後に、AIで生成したものだということが何らかの形で発覚して、「これってパクリ放題じゃん」となる可能性もあるかもしれません。AIを使って欲しくない・確実に権利が欲しい案件の場合は、事前に問題意識として制作サイドに伝えておかなければ、あとで問題が起こることがあり得るのです。
権利が必要だから人が全部作るか、権利はなくて良いとするか、一部を人が作ればその部分は権利があるのでそれで良いという中間案にするかなど着地点はあります。また、生成AIを使った場合でも、生成AIを道具として人間が創作したのだと言えれば、著作権は発生しますので、それが言えるような証拠を残しておくといったことも考えられます。しかし、どこまでやればそのレベルに達するのかの判断は難しいということがあります。いずれにしても、AIが自律的に作ったけれど、人間・会社が権利を持ちたいというのは無理な話です。