スマドリバーで定量・定性の両面からインサイトを深掘る
大里:なるほど、このバーはまさにスマドリを発信するための拠点なんですね。マーケティングに携わる人間としては、この店舗としてのKPIが気になってしまうのですが、スマドリバーはどのように設定されているのでしょうか?
元田:私たちが考えている最終的な目標は、スマドリバーを「飲めない人の聖地」にすることです。そのため、客数や売上などの数字には固執せず、情報発信や体験の場として考えています。また、アサヒビールで商品を作るためのヒントを得る場所も担っています。スマドリバーの1、2階では、注文から決済がすべてオンラインで完結しているため、お客様の基本属性や、お酒を「飲まない/飲めない」人のニーズや嗜好、飲み方などを定量データで分析ができます。
加えて、2023年9月、スマドリバーと同じビルの5階に新たに定性的な声を収集するための新店舗を展開しました。これにより、定量と定性の両面からインサイトの深堀が可能になりました。
大里:店舗全体をマーケティングのためのプラットフォームとしても活用しているんですね。ターゲットはどのような方を想定されているのでしょうか?
加藤:スマドリバーでは、メインターゲットとしてZ世代およびミレニアル世代の方を想定しています。ただ、その中でも「おしゃれ感度が非常に高いがお酒には弱いミレニアル世代」の方を具体的なペルソナとして設定してインサイトを徹底的に分析し、店舗体験を作り込んできました。

たった一人のインサイトを店舗設計のすべてに反映
大里:具体的にはどのように店舗体験を作り上げていったのでしょうか?
加藤:まず何名かペルソナを用意したのですが、その中の一人に近い人物であるチームメンバーのミレニアル世代の女性をヘッドピンに見立てました。そして、彼女にはヒアリングにただ答えてもらうだけではなく、ドリンクの試飲から店舗の内装まで細かく意見を出してもらい、店舗づくりのすべてを一緒に行いました。実際、店舗内には、ヘッドピンである彼女の悩みに応え、飲めない人が楽しめる工夫が数多く凝らしてあります。
先述の100種類の飲み物をそろえたのもその一つです。「飲み物の選択肢が圧倒的に少ない」という声に応える形でメニューを作りました。ただ、お酒の種類が多くても「飲んだことがほとんどないので味が選べない」という声もあったため、4象限のドリンクマップを作成。診断コンテンツ形式で自分の好みに合わせてドリンクが選べるような設計にしました。

診断コンテンツ風のドリンクマップ
加藤:また、店舗体験自体にもこだわりました。見ていて楽しいと思える体験や、グラスがおしゃれといった味以外の要素も作り込んでいます。
具体的には、「マーブリングレイン」というカクテルがそれに該当します。これは、お店の「飲める人も飲めない人も一緒に交わって同じ空間を楽しんでほしい」というコンセプトを表したシグネチャードリンクとなっています。

加藤:さらに、スマドリバーではすべてのドリンクでストローを外してドリンクを提供しています。これもN1分析で、飲めない人がドリンクを頼む時に「自分だけストローが付いているのが嫌だ」という悩みを抱えていることがわかった結果でした。代わりにスマドリバーでは、アルコール度数の違いをコースターで識別できるようにしています。他にも「お酒を飲むと顔が赤くなるので恥ずかしい」という声も挙がったので、店内の照明をオレンジ色にし、顔の色がわかりにくいようにしています。