スマドリで“飲み方の選択肢”を広げる
大里:本連載では、店舗ビジネスの有識者や新たな店舗ビジネスで注目される企業の方々をお招きし、これからの店舗ビジネスの在り方について紐解いています。
アサヒビールと電通デジタルによる合弁会社スマドリは、渋谷のセンター街で「SUMADORI-BAR SHIBUYA(以下、スマドリバー)」を運営しています。同社の事業やスマドリバーの概要、お二人が担う役割を教えていただけますか。
元田:私はアサヒビールで商品開発に携わり、現在はスマドリ社のマーケティング統括を行っています。
スマートドリンキング(以下、スマドリ)の考え方は、親会社のアサヒビールが2020年から提唱しています。一人ひとりが自分の体質や気分に合わせて適切なお酒やノンアルコールドリンクなどを選んで楽しむ飲み方であり、従来よりも飲み方の選択肢を拡大する考え方です。
私たちはこの考え方の推進を目指して、自治体、企業や大学との提携など、様々な取り組みを行っています。その中でスマドリバーは、スマドリを広く世の中に伝える情報発信拠点としての役割と、データ収集の役割を持って2022年6月にオープンしました。
加藤:私はアサヒビールの新価値創造推進部に所属しつつ、スマドリ社ではブランドマネージャーを務めています。
私自身もこのスマドリに共感し、“飲み方の多様性”をもっと広げたいという想いを持ってアサヒビールに転職しました。2022年3月にスマドリバーのプロジェクトに合流してからは、スマドリバーのブランディングを中心に取り組んでいます。
スマドリバーでは、「飲めない自分のままでいい。飲めても飲めなくても、みんな飲みトモ。」というタグラインを設定しています。これは、お酒が飲める人も飲めない人も等しく楽しめるようにする場所を作りたい思いを反映したものです。100種以上のメニューを用意し、その大半でアルコール度数を0%、0.5%、3%から選べる、自分好みの味で自分の体質や気分に合った度数のドリンクを選ぶことができます。
飲めない人も顧客に 市場を2倍以上に拡大
大里:スマドリの提唱するライフスタイルは、ビールメーカーにとっては本来の市場を狭めることになりかねない提案にも思えます。それでもアサヒビールが積極的に事業を推進するのはなぜですか?
元田:大きく二つ理由があると考えています。一つは世界的な潮流です。
世界的に見て、アルコールに関連する諸問題を防止するため「責任ある飲酒」をリードする活動が広がっています。アサヒビールも今や世界で2万人規模の従業員がいるグローバル企業として、当然例外ではなく必要な考え方だと思っています。
もう一つの理由として国内の消費者動向があります。アサヒビールでは、20~70代の国内成人人口約9,000万人のうち、「飲酒を好む」人は約2,000万人。「飲むけどほどほど」という人が約2,000万人、「飲めないまたは飲めない」人が約5,000万人と推計しています。
つまり、飲む人も飲まない人も楽しめる社会の実現は、約9,000万人と市場が広がることを意味しており、ビジネス的に大きな可能性を有していることになります。
そういった背景から、アサヒビール全体で特にZ世代・ミレニアル世代の飲めない人をターゲットとして、スマドリの推進を促進してきました。その一環で、2021年には微アルコールの「BEERY」の発売などしてきましたが、実際に体験してみないと考え方の浸透は難しいものです。そこで直接体験ができるようにし、体験した人が発信したいと思えるような場所を作りました。