高価なシステムの導入で失敗しない方法
──業務効率化や施策の精度向上に、テクノロジーの活用は不可欠です。一方で、多額の費用を投じて導入したシステムが“無用の長物”と化してしまうケースも少なくありません。御社はそのあたりの運用に長けている印象ですが、橋本さん自身にシステムの導入・浸透で失敗した経験はありますか?
広告代理店に勤めていた頃は、そのような悩みに直面するクライアントを見て、私自身も学んでいました。ただ、リクルートに入ってからは同様の経験をする機会が少ないと感じます。導入したツールが仮にうまく機能しなくても、そのことを失敗とは捉えないマインドが全社に浸透しているためです。
たとえば「サイトを来訪したユーザーに、来訪直後のタイミングで施策を当てたい」というマーケティング担当者の思惑があったとします。この場合、施策の肝となるのはリアルタイム性ですから「●秒以内に施策を実行できれば成功と見なす」という基準をあらかじめ設定しておくのです。そうすれば、既存のシステムでは実現が難しいとわかっても「●秒以内なら実行できた」という学びが得られます。このように、PoCを通じて地に足の着いた導入検討ができていると感じます。
──自社に必要なシステムの見極めや、導入したシステムの有効活用にあたって、必要な考え方やアクションを教えてください。
PoCの重要性を挙げる方は多いと思いますが、私はそれに加えて「PoCを短期集中で実行すること」が非常に重要だと考えています。限られた時間で導入の是非を検討するとなれば、優先順位の付け方や「何をもって成功と見なすか」といった指標がシャープになるためです。
当たり前ですが、システムは導入して終わりではありません。導入を検討する期間よりも、使い続ける期間のほうが圧倒的に長いはずですから、現場で実際にシステムを利用する人たちが触れる機会を設けることが大事です。なるべく多くの人を巻き込んでレビューをもらいながら、全員が意思決定のプロセスに当事者意識を持って関わることのできるプロジェクト推進を心がけています。
ゴールの明確化とスモールステップが鍵
──橋本さんは、データ主導型の組織づくりをリードするお立場にあると思います。マーケティングだけでなく営業も含めて、組織全体にデータドリブンの意識を根付かせるために、どのような工夫をしていますか?
どの組織においても、達成したいゴールがあるはずです。「業務を効率化したい」「顧客体験をリッチにしたい」などのゴールを達成するためには、必ずデータが必要になります。まずは自分たちのあるべき姿をクリアに描くこと、その実現のために「データがどう活用されるべきか」という問いを持ち続けることがポイントだと思います。
インパクトの大きい成果をすぐに得たい一心で、いきなり高額なシステムを入れて失敗するケースがありますよね。ステークホルダーが多ければ多いほど、成果に至るまでの道のりは遠く、それなりの時間を要します。そこで、段差が低くても決して転ばない安全なステップを数多く設けることで、緩やかにゴールへと近づくアプローチが有効だと考えています。私自身がシステムの導入やデータの活用を推進する際に、他部署とのコミュニケーションで意識しているポイントです。