メタバースのインターフェイスは「空間と体験」
――メタバースやXRと従来の2Dグラフィックでは、どのような点が異なるのでしょうか。
メタバースやXRのUI/UXは、2Dグラフィックのように「画面にレイアウトする」のではなく「空間や体験をつくる」と考えたほうがイメージに近いかもしれません。グラフィックデザインではなく空間デザイン、UI/UXデザインではなく体験イベントデザイン、といった感覚です。
たとえば2DアプリであればUIが一枚あれば足りてしまうような解説も、メタバースではガイドキャラクターが説明してくれるほうが理解度も体験価値も高まります。ここ数年のメタバース事例のなかには、3D空間があるのに2Dの画面や動画を見るだけで済ませてしまうものも多くありました。せっかく仮想空間に来ているのに体験が2Dと変わらなければおもしろみがないですし、「2Dでいいや」となってしまいますよね。
VRデバイスを使う場合は、さらに設計が複雑になります。非常に視野が広いため、注目させたいポイントに誘導するためのアニメーションや効果音の入れかたなど視線の誘導に、より高度な工夫が必要です。
次のふたつの動画は、Metaが提供しているOculus Quest導入チュートリアルをユーザーが体験した動画です。実際に触ってみないとわかりづらいかもしれませんが、MetaはVRを普及させるための研究開発に力を入れているだけあって、UI/UX設計が非常に優れていると感じます。XR事業に関してはさまざまな批判を受けることもあるMetaですが、ここまでユーザビリティを研究し向上させてきた点は、個人的には本当にすごいと思いますし、勉強になっています。
基本的にモバイルやウェブブラウザのUIは、個人に最適化された情報を効率的に提示できるようにインターフェイスが設計されています。AIの導入が進めば、この流れはさらに加速するでしょう。
しかし、私はこのユーザー行動の中には「ドラマが足りない」と感じるときがあります。ウインドウショッピングをしながら雰囲気やムードで商品を買ったり、最初は良いと思っていなかったけれど次第によく見えてきた、というような、突然変異が入る余地がほとんどないからです。
超効率化された世界に対抗する「感情的なインターフェイス」として、メタバース/XRは機能し得るのではないか。そう感じています。この新しい可能性を持つバーチャルワールドはやはり私にとって魅力的な場であり、可能性を追求してみたいインターフェイスなんです。
非ゲーム領域で3Dのインターフェイスは広まるのか
――メタバースは今後どのようなシーンでより活用されていくと思いますか?
「メタバース」の文脈をもう少し広げ、「3Dインターフェイス」の活用も視野に入れてみたいと思います。将来的に、3Dは2Dよりも情報量や訴求力の高いメディアとして、企業による営業ツールやウェブ、プレゼンテーションなどに積極的に活用されていくかもしれません。
次の動画は、日産自動車による事例です。自動車販売の営業をメタバース上で行うもので、機能設計がよく考えられているように感じました。カラーやパーツのカスタム、仮想空間での試乗といった実際の営業所でもできない体験を、ハイエンドなグラフィックで味わうことができます。
次の画像は、ニューヨーク・タイムズのR&D部門が実験的に公開している3Dスキャンを活用したメディアサイトです。空間の3Dデータと記事を組み合わせることで、より臨場感を持って現場の雰囲気を伝えています。
次の動画は、PowerPointと3Dを組み合わせたプレゼンテーションの作例です。3Dを使うことで解説に空間性・連続性が生まれ、訴求力がアップしているように感じられます。
こういった幅広い非ゲーム領域において、3Dやメタバース的なインターフェイスが広まっていくためには、いくつかの課題を解決する必要があると思います。
そのひとつのきっかけとなり得るのが、シンプルな時代の変化です。いまの現役世代では、そもそも3Dの操作に不慣れでなじまない方も多いと思います。しかし、Z世代以下のゲームに慣れ親しんだ層が経済活動の主軸になり、PCやネットワークの速度がさらに向上してきたころには、少なくともバーチャルなUIは今よりも一般的な操作インターフェイスとして浸透しているのではないでしょうか。
もうひとつはインターフェイスや体験設計の研究です。3Dを使っても、バーチャルならではの体験ができなければ、ただ操作しづらいだけの面倒くさいメディアとなってしまいます。とくに非ゲーム分野においては、現時点でセオリーが確立しているとは言えません。ツールや機能の問題だけでなく、ユーザーへの導線も重要です。どのようなインターフェイスや体験設計、アーキテクチャが望ましいのか。これは、まだまだ研究しがいのあるテーマであり、私も模索し続けていきたいと思っています。