「好きで作っていること」がクリエイターの強みになる時代に
――では、メタバースやXRといった分野に、クリエイターはどのように関われば良いのでしょうか。また今後はどのようなスキルが必要になると思いますか?
メタバースを形成する要素は「空間」や「体験」、その中で生まれる「文化」です。ワールド、建築、ファッション、イベント企画、シンガーやパフォーマー、プロデューサーといった、現実世界にも存在あらゆるクリエイターが活躍できる場があります。プログラミングや3DCGといった技術に注目するのではなく、こうした領域に関心を持つさまざまなバックグランドのクリエイターが参入すると、とてもおもしろいと思います。
なかには、ファッションデザイナーやインテリアデザイナーになりたいけれど、現実世界で実現するにはハードルが高いといった方も、まずはバーチャル内でデビューしてみるのも良いかもしれません。
私はメタバースプラットフォーム「Cluster」でワールドを公開しているのですが、それ以来、この場所を使ってイベント主催者さんが開催してくれたり、シンガーさんが通りすがりに路上ライブをしてくれたり、人だけでなく動物など色んなアバターが写真撮影をしてコメントを残してくれたりと、自分の手から離れたさまざまな文化が繰り広げられるようになりました。何もない空間にユーザーが行き交うことで文化や意味が生まれるなど、こうした風景を体感できることが、やはりメタバースの醍醐味でありおもしろさのひとつだと感じています。
私の場合はバーチャル領域をビジネスとしても取り組んでいますが、時間の許す限り、いちクリエイターとして手を動かしながら、可能性を探り続けたいと思っています。
それらをふまえ、必要となる具体的なスキルを考えてみると、高品質なコンテンツを制作するためには、3DCGの知識はもちろん、コンセプトデザインやキャラクターデザイン、ストーリーメイキング、音楽、プログラミングなど、多方面のプロダクションスキルがあることが理想だと思います。
しかし情報が溢れる今の時代、個人的に技術は大きな障壁ではないと感じています。私自身も使用しているツールのほとんどは独学ですし、生成AIをはじめとした新技術の登場によって、ワークフローはさらに進化していくはずです。
メタバース内のクリエイターの中には、企業のプロダクションの予算でやったらこれは作れないな、好きに敵うものはないと思わされるようなコンテンツがたくさんあります。「好きで作っていること」が、何より強みとなる時代なのかもしれません。
ひと昔前は、カリスマ的存在のクリエイターがクリエイティブを牽引していく時代でした。しかし、SNSが発達しテクノロジーが進化した現在は、価値観が分散し、個人の小さなクリエイションの集合体が重要な意味をなしています。技術による格差は小さくなり、生成AIの進化もこの流れを加速させるでしょう。当然ながら、XRやメタバースといった領域にも、同じ現象が影響してくると思っています。
クリエイターの定義も大きく変化しつつあり、何を目指すのが「かっこいい」のか、イメージしづらくなっている気がします。私自身も模索しながら、これからのクリエイションの形を提示していけるようになりたいと考えています。
――内藤さん、ありがとうございました!