競合がされたら一番イヤなことを考えよ
木村:多くのマーケターにとっては「戦える場所」を見つけるのが何よりも大変なのではないかとも思います。田部さんはスイートスポットをどのように見つけられていますか?
田部:3C分析を徹底して行うのですが、カスタマー分析と競合分析でそれぞれ意識していることがあります。
1つ目のカスタマー分析において重要としているのは、世の中のトレンドを理解することです。具体的には、まずその業界について徹底的に調べ上げます。IR資料などの情報も含めて、業界の平均値・感覚値をまずはしっかり理解する。その上でユーザーインタビューをすると、市場全体の平均(=抽象)と目の前にいるユーザー(=具体)を行き来することができます。

こうしてカスタマーの理解を深めた上で、競合分析に入ります。競合分析は「競合が何をしているか」を分析すること、と考える方もいらっしゃいますが、私は「競合がされたら一番イヤなことな何か」を見つけるのが競合分析だと思っています。競合が手を出さない領域、さらに言うと「競合が取れない立ち位置」を獲りに行くのです。
その後、最終的に自社の分析をして、自社が今とるべき戦略を考えていく、というサイクルを続けています。
木村:ユニリーバにいた時、Day1で競合の立場になって対自社の戦略を作る、Day2でその競合の戦略に対して自社がとるべき戦略を考えるというようなワークをやっていました。田部さんは、そういうワークを無意識的にやられているんでしょうね。
田部:総じて、常に意識しているのは「どこの会社も獲れないポジション」を見つけるということです。同時に、どこの企業もやっていないことをやるというのも大事だと思っています。
ホームランを打つのは「誰も見たことがないCM」
木村:どこの企業もやっていないこと、というのはプロモーションなども該当しますか?
田部:はい、おっしゃる通りです。実際、ノバセルでは多数のテレビCMを分析していますが、効果の平均点を超えてくるCM、特大ホームランになるCMは、「誰も見たことがないCM」なんです。見たことがない、聞いたことがないという状態を作れると、非常に施策効果が高くなります。
木村:おもしろいですね。こんなタイプのCMは見たことがないという新奇性は、本当にワークするんですね。
田部:そうなんです。裏を返すと、大きく当たったテレビCMのフォーマットを真似て、成功することはありません。たとえば、ビズリーチのテレビCMを真似した企業はたくさんありましたが、成功者は誰も出てきませんでした。
これはクリエイティブの話ですが、メディア戦略でも同様です。ノバセルがタクシー広告を展開した際、自社の広告をタクシーのサイネージで流すことは、BtoBスタートアップも広告会社もどこも実施していませんでした。当時は、タクシー広告を使うことで一気に想起を獲ることができたとも言えます。業界の中で誰も行っていないこと、競合がしないようなことは何かを常に意識していますね。