HOLIS式ティール組織の真骨頂「社内預金制度」
「ある日、店舗を回っていたときのことです。店内にはお客様4名に対して従業員が1名しかいませんでした。手が回っていないことは明白だったため『もう1名採用してはどうか』と提案したのですが、従業員は頑なに拒否するんですよ(笑)。『たまたま今はお客様が多かっただけで、いつもは一人で十分に回っているから全く問題ない』と」(片桐)
一般的な組織なら、メンバーを早めに採用して自身の仕事を減らそうとするはずだ。人間は元来怠惰な生き物であるため「楽をすること」がインセンティブになるのも無理はない。ところがHOLISグループの場合は、仕組みによって「経費を節約すること」がインセンティブになる。人を雇えば採用費や人件費などで経費が増え、教育コストが嵩み、既存のメンバーに分配される金額が減るからだ。今あるリソースで可能な限り頑張ろうとする姿勢は、企業人として当然の振る舞いだろう。
ここまででHOLIS式ティール組織の凄さは十分に伝わったかもしれないが、ここからが真骨頂である。HOLISグループでは、パート・アルバイトを含めた全従業員が社内に預金する権利を持つ。この社内預金によって、企業は銀行への返済時期を早めたり、新規事業へチャレンジしたりできる。預金者は預けた金額とそれによって生まれた利益に応じて、利益口座の一部を分配金として四半期に一度受け取ることができるのだ。

「書籍『ティール組織』の中に『ティール組織に移行する際は、オーナーが受けているメリットを従業員にも同様に与えるか、もしくはすべてやめるべき』という記述があります。オーナーが享受しているメリットの中には、株主であるが故に得られる利益がありますよね。ただ、従業員に株式を渡すとなると手続きが非常に複雑化するため、簡易的な仕組みをつくったわけです」(片桐)
経営の自分ごと化で利益の生み方を学ぶ
この仕組みを導入した2018年、1ヵ月で約1億円もの預金が集まったという。運営側の想像を超える反響の大きさだった。中には個人で数千万円を預金したパートもいたらしく、驚きを隠せない。会社が成長すればするほど、利益を出せば出すほど預金者の分配金は増えるため、自身が担当する業務や所属するグループを越境したアドバイスやアクションにもインセンティブが働く。
ちなみに、社内預金制度は預金者が退職してもHOLISグループに所属した期間だけ継続する。退職者ですら味方にしてしまう仕組みなのだ。事業や時期などによって分配金の額面は変わるが、四半期に一度の還元時に給与の数倍の額を受け取る従業員も少なくないという。約6割の従業員が預金制度を利用しており、制度のメリットは社内で十分に理解されている。
既存の組織形態に変化を加える際は、その組織形態に紐づいたすべての制度を一気に変更することが重要となる。そうしなければ内部に矛盾が生じ、混乱を招いてしまうからだ。HOLISグループでは従業員宛のメール1通でHOLIS式ティール組織への移行がドラスティックに行われた。
「この仕組みを導入すると、経費が瞬間的に減ります。売上の変動幅は業種によって大きく異なりますが、店舗ビジネスを主とする当社の場合、内部の仕組みが変わったからといってお客様がいきなり増えるということはありません。必要な広告費まで削減して売上が下がってしまったケースはありましたが、現場はその失敗から即座に学びを得るのです。経費を削れば自分たちの取り分は増えますが、広告を正しく活用しなければ大きな利益も得られませんから」(片桐)