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田中洋が紐解く、ビジネス成功のキーファクター

3回失敗できる人は何人だろうか?内田和成氏が語る、日本でイノベーションが生まれない決定的な理由

スタートアップ大国 イスラエルで衝撃を受けたこと

田中:日本ではあまりイノベーションが起きにくい印象があります。読者の皆さんへ、何かメッセージをいただけますか。

内田:コロナ禍になる直前にイスラエルに行きまして。イスラエルと言えば、ご存知のようにスタートアップ大国です。人口比で言うと、シリコンバレーよりもたくさんのベンチャー企業が生まれるそうで、その秘密を探るために1週間ほど滞在しました。大学や政府、ベンチャー企業、アクセラレータ、VC(ベンチャー・キャピタル)、会計事務所、法律事務所と色んなところを見てきて勉強してきたんですが、一つとてもショッキングなことがあったんです。

 とあるベンチャー企業の経営者が採用の話をしていて。「AさんとBさん、2人の候補者がいる。Aさんはベンチャー企業をこれまでに2つ立ち上げて、2つとも成功させている。Bさんは3回立ち上げて、3回とも失敗している。さて、どちらを採用しますか?」と聞かれたんですね。僕は当然「Aさん」と答えました。

 すると、その経営者は「違う、僕はBさんを採用するつもりだ」と話すわけです。僕は聞き間違えたのかと思って、もう一度聞いたのですが、やはりBさんだと言います。

 「どうして?」と聞くと、「Aさんは経験値が2しかないけど、Bさんは3ある。Aさんはたしかに2回成功しているけど、たまたまかもしれない。経験値で言えばBさんのほうが次の成功確率は高いからBさんを採る」と言われまして。これを聞いた時に、頭がガーンとなったんですよ。

 まず、日本にはこういう発想がありません。2回成功した人は、次も成功するだろうと思ってしまいます。しかし、統計学上の理屈で言うとたしかに経験値が3のBさんのほうが経験値が2のAさんより次にうまくいく可能性があるので、Bさんを採用するほうがスマートではあります。

 ところが、そもそも日本は3回も失敗させてくれません。1回失敗したら、かなりの人が2回目のチャレンジをできないでしょう。まして、2回失敗して、3回目にチャレンジできる人は恐らく100人に1人もいないはずです。ということは、「このままでは日本ではイノベーションは生まれないぞ」と。そう思ったのが2019年でした。

 それからしばらくして、2021年に東京オリンピック、2022年には北京冬季オリンピックがありましたよね。テレビでスケートボードやスノーボードを見ていたら、はたと思ったことがあって。スケボーやスノボって、本番で新技に挑戦するんです。新しい技ですから、やはり失敗してしまうことも多く、有力選手がメダルを獲れなかったりします。ですが、新技に挑戦した人をみんなでワーッと褒めるんです。新しい試みが生まれるようにするために必要なのは、これだなと思いました。

 翻って、日本企業は多くが体操型です。練習に練習を重ねて、本番でミスをせず100点満点の演技をする。これがよしとされています。が、それでは新しいものは生まれないでしょう。

 以来、講演でこういう話をする時は、「みなさんの会社では“失敗を許容する文化”や“失敗を許す組織を作る”とか言っていませんか? それではダメですよ」と言うんです。なぜかと言うと、失敗を許すというのは、失敗が悪で成功が善という2項対立の価値観だからです。そうではなく、「チャレンジする回数が多ければ多いほど成功するのだから、失敗を許すのではなく、チャレンジを奨励してほしい、そうでないと新しいものは生まれない」と、いま盛んに色々な講演でお話ししています。

田中:サントリーさんの「やってみなはれ」を思い出しました。

内田:昔と違って、失敗のコストもかなり低くなっています。テストマーケティングも昔は、非常に大掛かりなもので、札幌、静岡、広島など都市をピックアップして、その地域向けの広告を作ったりしていましたよね。テストマーケティングをして、上手くいかなかった時には億単位の損失が出ていた時代から比べると、今は私の定義で言うチャレンジがしやすい世の中になっていると思うのです。ですから、ぜひ皆さんにはチャレンジをしていただきたいですね。

田中:チャレンジを奨励するという企業文化のお話までお聞きでき良かったです。お忙しい中、今日は本当にありがとうございました。

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田中先生のあとがき

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この記事の著者

田中 洋(タナカ ヒロシ)

中央大学名誉教授。東京大学経済学部講師。京都大学博士(経済学)。マーケティング論専攻。電通で21年実務を経験したのち、法政大学経営学部教授、コロンビア大学客員研究員、中央大学大学院ビジネススクール教授などを経て現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2024/02/02 09:30 https://markezine.jp/article/detail/44510

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