「なぁぜなぁぜ?」と言いながら、本音を伝える人々
佐藤:残り2つです。5つ目の欲望トレンド「本音に応えてくれる」に関する事例では、ユニークなものが多数見られます。
【欲望トレンド5】本音に応えてくれる:コロナ禍で自分に正直に生きることを覚えた人々が、既成概念から抜け出し、“本音”に応えてくれるようなモノやサービスを求めるようになっている。
トレンド事例11:ネットミーム「#なぁぜなぁぜ」など
たとえば、この数年、ネットミームやSNS構文が続々と生まれていますよね。「おじさん構文」「お母さんヒス構文」「#なぁぜなぁぜ」など、いずれも本音を言いやすくするようなものが多く、『おぱんちゅうさぎ』は本音を言うものの権化とも言えるでしょう。「私はこのミームを使っているのであって……」とごまかしが利く、つまり本音を少し曖昧にして伝えることができるというメリットから、ここまでウケているのだと思います。

今のところは、企業が作り出しているミームはなく、消費者、主に若者たちが作り出しているものばかりですが、マーケティング的な観点から企業発で作り出せると、ブランディングにも活用できるかもしれません。
トレンド事例12:ニトリ『ハーフツリー』
MarkeZine編集部:消費者の本音をプロダクトに反映したような例はありますか?
佐藤:たくさんあります。たとえば、面白いのがニトリの『ハーフツリー』です。このクリスマスツリー、実は片面側だけ立体的になっているんですよ。最終的にクリスマスツリーを飾って、見て楽しめればよいのであって、「全然この形でも良かったんじゃない?」と、これも“本音”に応えている例と言えます。

ただ、この欲望をビジネスに活かす際には、「その本音によって誰かを傷つけたり、サステナビリティに対して負の影響を出したりしないか」という点を考慮することが必要です。
効率化・タイパの先にあるのは「手段そのものの目的化」
MarkeZine編集部:6つ目は「手段のエンタメ化」ですね。「手段を目的化してはいけない、というのももはや時代遅れかもしれない」という提案を誌面でいただきました。
【消費トレンド6】手段のエンタメ化:効率化、タイパのさらに先をいくニーズで、いずれにしてもかかる手間や時間そのものをエンタメに変えてくれるようなモノやサービスへのニーズが高まっている。
佐藤:そうです。手段の先に目的がある一方で、プロダクトなら「それを使うこと自体が楽しい」と、手段を目的化する観点も必要になってくると考えています。
トレンド事例13:花王『瞬間UVミスト』の大ヒット
たとえば、2023年は花王の『瞬間UVミスト(通称)』が大ヒットしました。簡単に日焼け止めを吹きかけられて、その液が肌の上でジェル化し、ムラなく密着してくれるという商品特長はもちろんですが、それと同時にその工程や体験自体に興味を持った方も多かったのではないかと思うんです。誌面で紹介した『バブルーン』も同じ類の商品ですね。このようにプロダクトを使う工程を面白くするという切り口がまずあります。

トレンド事例14:学べるエンタメ動画
他にもコンテンツのカテゴリーでは、“エンタメ”と“勉強”がシームレスになっています。
フォロワー数220万人(2024年1月時点)のYouTubeチャンネル『Kevin's English Room』は典型的な例で、彼らの漫才のようなトークを楽しく見ていたら、結果としてすぐに使える英語のワンフレーズを学べるという具合になっています。つまり、彼らの動画を見る人々の中では、エンタメと勉強、両方の目的が融け合っているような状態になっているわけですね。僕にとってはPodcast番組の『ゆる言語学ラジオ』がその代表例です。
MarkeZine編集部:佐藤さん、たくさんの事例紹介をありがとうございました。『2024年の欲望トレンド』については、明日公開の記事でより詳しく解説いただいていますので、ぜひこちらもチェックいただければと思います。その他、DDDの研究内容を共有している連載『「欲望(Desire)」で紐解く、消費者の今と未来』もあわせてご覧ください!