消費者の欲をかきたてる3つのキーワード
──残りの3つのトレンドについても解説をお願いします。
佐藤:4つ目は「推し活経済圏の拡張」です。推し活の勢いは言わずもがなですが、2023年頃から本来推しの対象ではないものにまで推し活が広がりつつあります。たとえば、日経トレンディの「2023年のヒット商品」で24位に入ったお菓子の『たべっ子どうぶつ』では、コラボカフェや家電などキャラクターを用いたコンテンツやグッズが多数出ましたが、最初は消費者のほうが勝手に推し活を始めたんですよね。その流れをメーカー側が察知し、キャラクターをIPとして活用しビジネスにつなげたという事例です。推し活経済圏の拡張により、商品やサービスに新しいベネフィットを生み出すことができるのではないかと考えています。
5つ目の「本音に応えてくれる」というトレンドは、日本人が元々“べき論”に弱いことを考えると興味深い欲望です。「行きたくない飲み会には行かない」「いらないつながりは切る」など、コロナ禍では旧来の“べき論”を本音が打ち破る場面が見られました。そのような新しい価値観がアフターコロナでも続いているために生まれている欲望だと思われます。「1人分の食器ぐらい自分で洗えばよいのでは。食洗機はファミリーのもの」という既成概念を捨てた1人用の食洗機『SOLOTA』が話題になったり、「着付けせずに浴衣を着たい」という本音に応えてくれる『セパレート浴衣』がプチヒットしたり、消費者がこれまで出せなかった本音に応えるプロダクトやサービスが“堂々と”出現し始めています。
最後に6つ目は「手段のエンタメ化」です。手段を目的化してはいけないと言われてきましたが、それももう時代遅れかもしれません。やらなければいけないことを簡略化するために効率化が進んできたのがこれまでだとすると、これからはどうせ少しは発生する時間や手間そのものをエンタメに変えていこうとする方向性も出てくると見られます。アース製薬の『バブルーン』は面倒な水回りの掃除をラクに、かつおもしろい時間に変えてくれる画期的な商品です。目的も手段も充実させられれば人生はもっと楽しくなるという本音に応えるという意味で、これは5つ目の欲望と連動しているとも考えます。
──いち消費者として腹落ちするポイントがいろいろありました。人々の欲望を読み解くというのは、純粋におもしろいですね。
佐藤:そうですね。私は、人間を知るということは、人間の欲望を知るということだと思っています。そこに一番近いのが、マーケティングです。クライアントや会社に貢献しながら、人間の欲望を突き詰めていくことができる、この仕事は私にとってこの上なく幸せなものだと感じています。
千葉:DDDでは、「欲望」を基点にすればサステナブルに消費の好循環を生み出すことができるのではないかと考えています。人々の欲望が満たされる瞬間は、マイナスがゼロになるというより、心にプラスが生まれる瞬間だと思うのです。そして、それを見つけ、生み出していくことこそ、マーケティングの醍醐味なのではないかと思います。
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