IT業界で働き続けるために大事な3つの視点
先日開催されたあるカンファレンスで登壇した際に、オーディエンスの一人から「業界に約30年いらっしゃるとのことですが、振り返って、大事なことは何だとお考えでしょうか?」と質問を受けた。私はそれに対して、<1>感謝すること、<2>Growth Mindset (成長マインドセット)、<3>反トラスト法とネットワーク効果、の3点を挙げた。
大事なことの一つ目、「<1>感謝すること」とは、すべてのことに感謝するという意味だ。それは、「今日は良い天気だなぁ。太陽さん、ありがとうございます」と大自然の恵みに感謝することから、仲間と一緒に仕事できること、最先端の業界で仕事できること、お客様からクレームを頂くこと、嫌な先輩からチクチク嫌みを言われたり、怒られたりすること、それらすべてに感謝すること。そのすべてに感謝できるとき、あなたは本当に、「Growth Mindset」で仕事することができ、そして、ポジティブに前を向いて生きていくことができる。そのとき、おのずと結果は後からついてくる。仕事もうまくいくようになる。
トラブル対応などでは、感謝することなど到底できないと考えがちである。たとえば、個人情報漏洩の懸念で、クライアント企業から訴えを起こすとアラートがくる。個人情報保護委員会から呼び出しを受けて説明にいく。あるいは、初期のYouTubeなどでは、著作権侵害の懸念があり、民放連から呼び出される。
だが、「この経験から、私は何が学べるのか?必ず学びがあるはずだ」と考える。ネガティブな事故や事件の中に、学びを発見し、ポジティブに転換していく。「とても大変だったけど、でも、こんなにたくさんの法的知識を身に着けることができた」と感謝し、そして、ネット広告業界にその経験を伝えていく。業界全体の知見も蓄積され、社会的にも信頼される業界へと育っていく。自分がフィルターとなって、ネガティブな出来事をポジティブなエネルギーに変換していく。ポジティブなエネルギーのフィードバックループを作っていくのだ。そのきっかけに、その媒介の一つに、自分がなる。
あなたは、感謝しているとき、同時にネガティブな気持ちにはなれない。積極思考・ポジティブシンキング・Growth Mindsetの基礎は、感謝することなのだ。
そうすれば、「変化を楽しむこと」ができるようになる。変化を楽しむことができなければ、大事なことの二つ目、「<2>Growth Mindset」にはなれない。変化とは、日々アップデートされていくプロダクト的な話だけではない。たとえば、ルールが変わっていく。媒体社の考査やレギュレーション、GDPR・個人情報周りなど、毎年のように微調整があり、変わっていく。あるいは、会社の戦略もそうだ。3ヵ月ごとに会社の戦略が変わっていくとき、たとえば、「この前まで、動画広告を最優先で売るっていってたのに、今度はリテールメディアかよ!」と不満をもつこともある。そして、変化の中にはレイオフもある。たとえば、SNS事業社を買収したのに、会社全体としてテコ入れする気配がない。その間に、業界のトレンドが変わり、そのプロジェクトがお蔵入りになる。結果的に、その事業の担当社員がレイオフされていく。IT業界では珍しいことではないだろう。
そのような変化を楽しむ。それができるかどうかが成功を左右する。そのためには、「<1>感謝すること」も大事だし、終身雇用など組織に依存した働き方をするのではなく、「終身能力」と私は呼んでいるのだが、終身で、つまり、一生、どこにいっても通用する能力を身に着ける意識で仕事をする。組織に依存していると、意識が固定されてしまい、変化への対応力が鈍る。常に変化するためには、会社や組織との関係も変化を前提にする。
どちらかといえば、会社や組織よりも自らの変化のスピードが速いほうがいい。変化しない限り、その先に成長もない。したがって、積極思考、ポジティブシンキング、Growth Mindsetの基礎は、「変化に感謝すること」と言ってもいい。
そして大事なことの3つ目が、「<3>反トラスト法とネットワーク効果」だ。私は1990年代、MicrosoftのMSNにコンテンツを提供する仕事をしていた。Microsoftとのグローバル契約を私が所属する会社が結んでいて、私はその日本向けコンテンツの責任者だった。その経験から、「反トラスト法とネットワーク効果」の重要性を学んだ。補足として、念のために確認しておくが、反トラスト法とは、単一の法律ではない。
「米国の独占禁止法(反トラスト法)は、単一の法律ではなく、幾つかの法律の総称である」(参照:公正取引委員会「反トラスト法」)