来店にプラスアルファの体験価値を
インナーウェアの製造・販売を手掛けるワコールでは、2019年5月に3D計測サービス「3D smart & try」を開発。同年から店舗にてサービス展開している。このサービスの展開についてワコールの南氏は「デジタルの力を活用し、店舗へ来店することに価値を感じていただけるよう、販売だけではないプラスアルファの体験価値を提供しています」と、セッションの冒頭で語った。
同氏が所属するイノベーション戦略室では、ワコールが持つ約2,500の店舗と約3,000名の販売員を活かし、デジタルのみを推進するのではなく「人が活きるデジタル」を軸として価値創造に取り組んでいるという。
「3D smart & try」を導入した背景には、インナーウェア売り場での接客に対する顧客の声があった。
従来からある店頭接客では、インナーウェア売り場を訪れた顧客は販売員に声をかけられ、販売員主導で商品についての会話が展開される。その後、試着室に移動し個室で身体を採寸され、商品選びや試着をする流れだ。こうした一連の体験に対し「初対面の販売員に自分の身体を見られるのは抵抗感がある」「サイズ選びが難しく、きちんと測って買わないと失敗しそうだ」という顧客の声が、サービス開発のきっかけとなった。
3D計測サービスで実現する顧客体験とは
なぜこのような接客フローが行われていたのか。南氏は、「最適なインナーウェアに出会うためにはこれらのフローが必然だ」という販売側の考えが以前からあったのだと話した。
インナーウェア選びには、バスト周りの集計値やそれぞれの身体の特徴・年代といった「体型」、バストの造形や着心地などの「要望」、デザインやカラーのような「好み」の、3つの要素が関わってくる。このうち体型と要望は、販売員のサポートが必要となる要素だといえる。
「3D smart & try」は、顧客が一人でセルフ計測を行え、インナーサイズや全身18ヵ所の計測数値、体型特徴が把握できる。そして最後に、接客を受けるか否かを顧客自身が選択できる仕組みだ。
サービスの流れとしては、まず顧客は専用アプリ「WACOAL CARNET」をダウンロード。来店したら計測ルームに入り、自分でタッチ操作をしながら3D計測を行い、スキャナー画面で結果を確認できる。計測が終わったらアプリにデータをダウンロードし、接客希望者は「接客リクエストシート」を販売員に渡す仕組みで、スムーズな販売員との接点創出にもつなげている。
加えて、パーソナライズされた購買体験も実現。ボディスキャナーでの計測によって、3D映像などのデータだけでなくワコールの各ブランドのレコメンドや、過去実施した自分の計測データと比較(アプリ限定機能)することも可能に。顧客それぞれの情報を可視化させ、ストレスフリーな購買体験を提供できるようになった。