顧客の声を起点に新サービスを開発
「SCANBE」では若年層に魅力や情緒的な価値を感じてもらうため、計測ルーム内の配色や素材感、内装の形状などの細部まで工夫を凝らしている。顧客が一人で計測ルームに入る際、緊張や不安よりも楽しい気持ちで利用できるようにするためだ。スキャナーの画面も、市場調査を経て魅力的なUIや効果音・音声を取り入れ、温かみのある「SCANBE」の世界観を体現した。
旗艦店ではこの他、体験型ストアとして利用者が気軽に自己表現できるアートプロジェクトや、定期的な顧客インサイト調査を実施。顧客が意見や思いを楽しく表現できるよう工夫しながら声やニーズを拾い、サービス内容のブラッシュアップや企画への還元につなげている。
南氏は「SCANBE」において顧客起点で生まれたサービス事例として、2023年10月にスタートした「わたしに合うブラ診断」を紹介した。これは3D計測の利用者を対象に結果に基づいた体型タイプを診断し、身体に合ったインナーウェアの選び方を10分間で解説するサービスだ。利用者の悩みに合わせた具体的なアドバイスや、商品選びにお勧めの検索ワードを提案してくれる。

3D計測サービスを運営していく中で、若年層に向けた接客へのリクエストシートの発行数が低いことが課題となっており、この診断サービスの開発につながったと南氏。加えて、化粧品市場などでは短時間のカウンセリングが拡大し、若年層の「タイパ思考」が浸透していることなども背景として挙げた。
「お客様にとって、店頭での体験をする際に『時間』はコストなのではないかと考え、『どれくらいの時間で』『何ができるのか』が見えないと、手を出さないのではないかという仮説を立てました」(南氏)
重視したのは「顧客起点で考え続けること」
この仮説をもとに現状分析とヒアリングを行ったところ、ワコール側の想定する接客所要時間30分~45分に対し、利用者が思い描く接客時間の期待値は10分~15分程度という結果に。約2~3倍のギャップが存在することがわかった。
そこから、南氏らは「お客様のニーズに沿った時間で時間対効果の高い接客を提供できれば、体験向上および売り場の販売員の生産性向上にもつなげられるのではないか」と考え、旗艦店で検証を実施。接客において「15分コース」「30分コース」の2つを用意したところ、接客希望者の約75%が15分コースをオーダーする結果となった。利用者からは「15分なら手軽」「長いと色々されそう」「自分の聞きたいことだけ聞きたい」といった声が挙がったという。
顧客の声を反映しながら課題点をブラッシュアップし検証を繰り返した結果、10分間という短時間のサービスで、満足度が高く購買にもつながる傾向が見られた。このような経緯を経て、「わたしに合うブラ診断」はリリースに至った。
開発の中で意識したことは「常に顧客起点で考え続けること」にあったと南氏。「顧客起点で考え、ブラッシュアップを繰り返した上で、旗艦店から他の店舗へと展開を行っていきます。当社はお客様とのコミュニケーションを通じて、お客様が自分の身体を知り自分自身と向き合うこと、自分らしく豊かに生きることにつながるサービスやソリューションを、今後も提供し続けます」と語り、セッションを締めくくった。