顧客軸で見るようになって、仮説が増えた
榊:一休の事業は、戦略変数がものすごく狭いんです。競合も同じものを売っていて、しかも我々はラインアップを絞っているので、いわば他社の“下位互換”サービスなんですね。
青木:下位互換、なるほど(笑)。
榊:薄いバリューチェーンの中で、わずか1ミリ上を行こうとしているのが当社のビジネスです。だから商品にはさほど注力せず、リコメンドやプロモーションでちょっと差別化しているわけです。
本書に「自分の会社にとって最適なデータドリブンのモデルを創造することを目指してほしい」と書いたように、我々のやり方がどの事業にも適用できるものではないとは思っています。たとえばパーソナライズも、そこまですべきか、そもそもやるべきかは事業によります。一休は、年間100万円も使ってくださる方に毎回「はじめまして」と対応したら一瞬で帰られてしまうので、「今日あなたにぴったりの商品がありますよ」というお出迎えをしているんです。
青木:わかります。榊さんに「顧客軸で見よう」というお話を聞いてから、僕らもそうするようになりました。するとやはり、思っていた顧客像と実態にかなり乖離があったんです。
たとえば、年間とても多く買ってくださる方が数%いますが、この割合が年々増えていました。新規の方の流入もそれなりにあるものの、この2年ほどで顧客の“中身”が変質し、ヘビーユーザーからの売上も増していました。
その上で、ではヘビーユーザーの数や売上比率が増しているのは、そもそもいい状態なのか、もっとライトな層にアプローチすべきでは、いやいやヘビーユーザーの方に大きく心を動かしてもらえたら売上を相当伸ばせるのでは? などと、仮説が生まれています。
社長と分析担当者との会話の重要性
榊:いいですね! 最初にお話を伺ったときと全然違います。
青木:僕、素直さには定評があるので(笑)、いいなと思ったことはすぐに取り入れます。顧客に対してこうすべきか、これが求められているかも、と仮説をもとに議論できるようになったのは、やはりデータが見えてきたからだと思います。
榊:そういえば、私がお見せしたあるグラフに青木さんが反応されて、経営指標についての話をしたことがありましたね。
青木:そうでしたね。財務データなどの経営指標は、自社の数字だけ見ていても使い物にならなくて、いい状態か、改善の余地ありか、危機的なのか、などが見極められない。昔、まだ経営を勉強しているとき、ふとそう思ってコンサル会社の方に聞いたところ「投資会社やコンサルは比較対象をセットアップすることに肝がある」と言われて腑に落ちたのを覚えています。
財務以外のデータに関しても同じで、自社のデータだけに向き合っていてもわからないことが多いから、一般論や近い業態の実際を把握するほうがベターですよね。
榊:そう思います。
青木:僕もまだ、分析担当者と一緒に「これってどうなんだろう……」と言っている段階ですが、いろいろな切り口の分析ごとに、理想的な“絵”をばちっと持てるといいなと。
榊:でも、社長である青木さんと分析担当者さんがしっかり会話できているじゃないですか。それがまず大事です。大体、お互いに会話しないことが多いです。