榊氏が行う、経営と分析視点の自問自答
青木:そうなんですか? 社長として何が起きているか知りたいから、普通に会話したいものだと思っていました。僕はデータに限らず、現場に興味がありますね。開発や商品クオリティの管理プロセス、倉庫のオペレーションとかがどうなっているのかな、と。
榊:いい姿勢ですね。分析担当者に足りないのは「問い」なんです。その点で、社長から問いが降ってくるのは、非常にいい環境だと思います。私は両方の視点があるので、いつも自問自答するわけです。たとえば……。
社長・榊:「年末年始、どうだった?」
分析・榊:「いい感じですよ。特にこのあたりの地域の宿が好調でした」
社長・榊:「その要因は?」
分析・榊:「温泉の泉質や、交通の便が良くなったことのようですね」
社長・榊:「なるほど、確かにその地域は〇〇温泉のお湯がすばらしいからね」
榊:最後の「〇〇温泉のお湯はすばらしい」といった情報は分析担当者が持っていないもので、分析を深くしていくには、こうした情報が必要だったりするんですよね。
青木:確かに。僕も、分析に関わっているメンバーを集めて、こちらから問いを出して答えを出してもらって、というのを続けています。まだ、その答えを上手に活用できている気はしませんが……。また、意外な答えもあまり出てこないので、経営がドラスティックに変わったわけではありませんが、やはりリスクに気づきやすくなるという利点はありますね。長年の推移と照らし合わせると、外部環境の変化にも気づきます。
榊:答えは、意外じゃなくていいんです。長年コンサルタントをしていたのでわかりますが、あっと驚く分析結果が出るのは非常にまずい状態です(笑)。
データを“パートナー”にするために
青木:それならよかったです(笑)。この数年、データ分析と活用にコツコツと力を入れてきて、最近ようやく効果を実感できるようになりました。
仕事とは「売る仕事」「作る仕事」「買う仕事」のどれで課題を解決するかに分類できるかなと思っていて。僕が務める経営者の仕事は、純粋に買う仕事だと感じています。資金調達も採用も、メディアや世の中の関心や理解を得ようとするコーポレートコミュニケーションも、買う仕事です。M&Aのような大きな買い物ではありませんが、僕、小さい買い物を上手にするのはけっこう得意です(笑)。で、作る仕事や売る仕事は、社内の別のメンバーが担っています。
榊:なるほど。私は売る方が得意ですね。しかも、興味がないパートは放置しがちです(笑)。青木さんは、データにちゃんと興味をもって、実践されてきた点がすばらしいと思います。
青木:やればやるほど、データに興味が湧いていますし、データを活用するほうが誠実に経営できそうだとも感じています。自分が「こうしたい」じゃなく、目の前にある事実からすべてを考えていく。商品が売れなかったら、タイミングが悪かったからかも、などと思いがちですが、やはり「売れなかったことを重く受け止めるところからスタートしないと改善しないね」と社内でも話しています。
もっとデータと“パートナー”になっていきたいです。そのためには自分の考えを相対化する態度が重要ですね。そうして初めて、「いやいやデータはあくまで参考だから」と言わずに、データとちゃんとパートナーになれそうです。
榊:今日は、青木さんのデータへの向き合い方がぐっと進んだことがよくわかりました。また、さらなる進化をお聞きするのを楽しみにしています!