本音が見える場所ではなくなった「SNS」、見えていないものがある「デジタル」
——デジタルプロモーションを専門とするおふたりが、普段意識していることをお聞かせください。
橋爪:私は「ウェブサイトでしかできない表現」を大切にしています。ウェブサイトは、「情報を載せる受け皿」「テレビCMを打つから、LPを作らないと」など企画の下流として捉えられることも多いですが、「企画全体の世界観を表現する」ためにはとても重要な接点。そのため、「企画の世界観を最大化するクリエイティブにするにはどうしたら良いか」は常に意識しています。
松田:これまでデジタルは、良くも悪くも世の中を可視化してきました。しかし一方で「本当はデジタル上で見えていないこともある」ことを念頭に置いておかないと、どこかで大きく間違えてしまうこともあるのではないかと感じています。
たとえばInstagramで言うと、私の感覚では半数くらいの人がアカウントに鍵をかけている印象ですが、基本的に鍵アカウントの投稿は検索してもでてきません。イベント関連の施策を行うと、クライアントから「現地の様子を来場者のSNSで可視化するような仕掛けをしたい」と要望をいただくことも多いのですが、実際は促されたからしぶしぶ投稿する人もいれば、満足はしたけどわざわざアップしない人もいると思います。今までは本音を可視化するツールとして活用されてきたSNSですが、その様相がどんどん崩れてきているのではないでしょうか。
そういったクライアント側からは見えづらい部分がデジタル上にもたくさんあるのだと思います。プロとしてデジタルに期待されているものを返していくことはもちろんですが、「見えていないものがある」とクライアントに伝えていくことも、現在は意識しています。
「絶対にこれが良い」と思わせるほどブランド固有の“なにか”を見つける
——実際に企画に落とし込んでいくとき、また「届ける」ために意識していることはありますか?
橋爪:まず「ユーザーの気持ちになってみること」を意識しています。私たちのような総合制作事業会社はBtoBのビジネス形態ですが、BtoCの立場になることで見えてくるものもあると思うんです。
アウトプットをする際、私はワイヤフレームを書くことから始めます。そこから企画やウェブサイトのイメージを明確にしていくときには、食品であれば「ユーザーに『おいしそう』『食べてみたい』と本当に思ってもらうためには何が必要なんだろう、どうしたら良いんだっけ?」というように、誰よりも自身がユーザー視点に立って考えることを大切にしています。
松田:私は頭の中に「それってほかのブランドでもできるよね?」というツッコミ役を置くようにしています。そのブランドやクライアントしか持っていないもの、それは強みでも、逆に弱みでも良いと思うのですが、ブランド固有のなにかに立脚することが重要です。そういった特有のものがなく強化しなければならないのであれば、誰も世の中で取り組んでいないことをする、または新しく見える施策で先手を打っていく必要があると思います。
一方すでにコアが確立されている場合の難しさは、「コモディティ化」です。たとえば「水」にどのような価値をつけていけば良いかを考えると、今であればサステナビリティといった世の中の潮流や機運に乗り、そこに共鳴する形で選んでもらうこともひとつでしょう。
また「ツッコミ役」というのは自身で考えるときだけでなく、クライアントに対しても同じです。コアだと思っているものに固執し過ぎてもどこかで破綻する可能性があるため「そこにこだわっていてもあまり芽がないですよね。それならこっちの方向でいきましょう」などと意見を伝えることもひとつの役割だと思っています。
競合のブランドと市場にすでにあるものを並べたときに、とくに突出しているものがなかったり、生活者が「絶対にこれを選びたくなる」ところまで達していなかったりする場合、ブラッシュアップすれば突破できるのか、磨いてもブレイクスルーさせるのが難しいかなどを見極めるようにしています。それがとても難しいんですけどね。